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江戸美術考現学 浮世絵の―光と影  仁科又亮著 を読む [美術]

昨年の夏、ギリシャの美術館から写楽の肉筆画が発見され、小林忠氏(千葉市美術館長、学習院大学教授)、内藤正人(慶応大学准教授)らの鑑定で真筆とされました。この肉筆画は7/4~9/6の間、江戸東京博物館で展示されているそうです。(日本・ギリシャ修好110周年記念特別展 「写楽 幻の肉筆画」 ギリシャに眠る日本美術~マノスコレクションより

10年ほど前までは「写楽の肉筆画はない」というのが定説だったと思いますが、このような発見があり写楽の研究が一歩前進したと感じています。今回鑑定された小林氏は、確か何年か前に肉筆画の「天童広重」が大量に発見された時も鑑定されていたと思います。このような新発見の絵を真筆と判定するにはさまざまな角度からの研究・検証と勇気が必要だと思いますので小林氏の判断に敬意を表したいと思います。(エラそうですいません、他に良い表現が思いつかないもので…)

新発見の美術品と言われるものは多いのですが、その評価は難しい場合が多いと思います。特に、すでにホンモノと言われているもので創られたその作家の枠組みから外れたものが発見された場合は、ニセモノと判断する方が簡単でありホンモノと判断するには、さまざまな角度からの検証が必要となります。このような場合、ホンモノ説に反論する方が簡単であるため、その批判に耐えることも重要となります。
美術品の場合、一度ニセモノと判断された場合は敗者復活が非常に難しいため、安易にニセモノとレッテルを貼らずに取りあえずホンモノと判断して研究者が議論を重ねて結論を出すことが重要だと私は思っています。

前置きが長くなってしまいましたが、この本の話題に移りましょう。この本は20年ほど前に出版された古い本です。著者の仁科又亮氏は「浮世絵菱川師宣記念館」初代館長で江戸美術を専門とされており、この本でも広重などの新発見の絵に関して検証を行っています。その中で私が注目したのは、小林文七コレクションにあった写楽の肉筆画に関する考察に関してです。
Amazonには写真がなかったので、画像を追加します。本を購入したい人は「No image」をクリックしてください。

江戸美術考現学―浮世絵の光と影 (浮世絵美術名品館シリーズ)
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写楽は、活動期間1年あまりで百数十点の浮世絵を残して忽然と消えた「謎の絵師」と言われています。写楽は当時はあまり人気が出ず、明治になっても国内での評価は低かったのですが、明治43年にドイツのユリウス・クルトの著「写楽」によってレンブラント、ベラスケスと並び称せられてから国内でも人気が高まりました。あまりに活動期間が短く、絵師としての技量が高いため、当時の有名絵師が写楽の名前を称して出版した「写楽別人説」が広く議論されています。円山応挙、葛飾北斎、谷文晁、司馬江漢などそうそうたるメンバーが別人説の名前として挙がっています。
この本の著者である仁科氏は、写楽非別人説をとっており、
写楽は写楽であって別人ではなく『浮世絵類考』の記述通り解釈すれば良い。(中略)また別人説として最も賛論の多い北斎であるが、北斎は当時、春朗から宗理と改めた美人画風の模索期にあたっている。(中略)顔面描写などにおいて写楽の画域にとうてい達し得ておらず、この北斎若描き期を当てるのは無理である。
さて、この写楽肉筆画ですが、明治25年11月12、13の両日、上野三橋松源楼において小林文七主催の浮世絵展覧会が開かれ、この出典目録に「写楽 紙本立幅 五代目団十郎暫之図」として出されています。すなわち、この展覧会はクルトによる写楽礼賛の前ですので、日本でも写楽がほとんど注目されていない時期のものです。(つまり、当時は人気のない絵師だったので贋作が存在しないと判断できる)
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仁科氏がこの肉筆画を真筆として発表したことに対して、美術評論家の瀬木慎一氏(最近では「なんでも鑑定団」でおなじみ)が「慎重を要する写楽研究」として反論をしたようです。本書にはそれに対する再反論として「写楽肉筆の写真は真筆だ -ふりかかる異論に再反論」を掲載しています。
この肉筆画に対しては、当時の権威と言われていた小林文七、林忠正、フェノロサ、野口米治朗などの錚々たるメンバーが写楽作品として認めていたとのことです。
ちなみに、この肉筆画の花押は「十郎兵衛」と読めるとのことです。

私も写真を見る限り、ホンモノのように思えます。ただし、同じ絵師が描いたものでも浮世絵と肉筆画はかなり違うものが多いので注意が必要なことも事実です。

写楽に関してはこちらもどうぞ。
・写楽は北斎か? 「写楽」問題は終わっていない 田中英道著を読む
・写楽は欄間彫りの「庄六」だ! 「歌川家の伝承が明かす『写楽の実像』を六代・豊国が検証した」 六代歌川豊国著を読む
・江戸美術考現学 浮世絵の―光と影  仁科又亮著 を読む
・美術評論家の瀬木慎一を悼む





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写楽 閉じた国の幻東洲斎写楽 (新潮日本美術文庫)浮世絵ギャラリー〈4〉写楽の意気 (浮世絵ギャラリー (4))写楽を追え―天才絵師はなぜ消えたのか四大浮世絵師―写楽・歌麿・北斎・広重実証 写楽は北斎である―西洋美術史の手法が解き明かした真実浮世絵の歴史浮世絵師列伝 (別冊太陽)
浮世絵 消された春画 (とんぼの本)浮世絵「名所江戸百景」復刻物語四大浮世絵師―写楽・歌麿・北斎・広重浮世絵大事典


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