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ゴッホの贋作をありがたがって観賞してはいけません! 「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか 小林英樹著 を読む [美術]

「贋作」...いやな響きです。そして同時に興味が高まる言葉であることも事実です。
私は美術品の贋作事件に興味を持ち、いろいろな関連した本を読んできました。その結果、有名な美術館でも贋作を展示していたことがある。あるいは今も展示していることがあることが分かりました。有名な倉敷の大原美術館でも過去にゴッホ、ドガの贋作を展示していたことがあるそうですし、美術館の学芸員も自分の勤める美術館の作品を自信をもって「真作」と言えないことも多いようです。
そして、逆に有名な贋作事件の中には、「真作を贋作とするために仕掛けられた贋作事件」もかなりあることを知りました。もともと古美術業界や美術界の中では、贋作は相手にされないのですからマスコミを動員して贋作事件として公にすることには何らかの意図があることも注意する必要があります。

「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか―はじめてのゴッホ贋作入門 (YUBISASHI羅針盤プレミアムシリーズ)
さて、『「ゴッホ」にいつまでだまされ続けるのか』です。著者の小林英樹氏は、1947年生まれ、東京藝術大学油画専攻卒で現在は愛知県立芸術大学教授とのことです。小林氏の「ゴッホ」関連の本は、何度か本屋で見かけたことがあるものの、これまで読む機会がありませんでした。
私にとってこの本は衝撃的な本でした。私はこれまで、日本の真贋事件を調べてきて「やっぱり日本の美術界は閉鎖的でダメだな~」と思っていたのですが、この本を読んで日本以外の美術界も同じような状況であることを知りました。

今年も日本にゴッホの贋作がやってきた。その贋作は、東京と京都で開催されるワシントン・ナショナルギャラリー展の目玉としてポスターに大きく掲載され、街をにぎわせている。
一体この国はどうなっているのだろうか。
山紫水明の地、日本ではかつて豊かな文化が育まれ、時代の価値観を反映した優れた芸術作品が絶えることなく生み出されてきたが、それらを可能にしたのは数多くの鍛え抜かれた目利きの存在である。彼らは、秀逸の作品や本物の芸を見極める眼を持ち、一級品を愛し、追求する文化的風土を守り続けてきた。そうして、質のよいものだけが残り、質の悪いものは淘汰されていった。日本にはそういった伝統がある。
小林氏は、この本の中で「左利きの自画像」、「寝室」、「芦屋のひまわり」、「カミーユ・ルーラン」、「ジヌー夫人(オルセー美術館)」、「東京のひまわり」の6点を贋作だと指摘しています。そして、推定される贋作者も特定しています。
この中で、贋作入門編として「左利きの自画像」について紹介します。

自画像は、画家が鏡に映った自分自身を見ながら描くものである。右利きの画家はパレットを左手に持つ。それをキャンパスに描くときは、鏡に映ったとおり画面に向かって左側に描かれる。同様に筆を握る右手はキャンパス上の右側にくる。
一方、他人が描いた画家の肖像画は、パレットを持つ左手は向かって右側に見える。鏡に映った像とは反対である。同様に筆を握る手は向かって左側に描き出されるが、それは握手をするときに差し出す手である。
gogh.jpg「左利きの自画像」は、注意して見たことはありませんでしたが、私のゴッホの絵のイメージに合致した絵だと思っていました。ゴッホらしい顔、太い輪郭線、波打った背景...。これらは、すべて計算されて製作された画だと小林氏は指摘します。小林氏は上記以外にも造形的におかしな点に関する6点の検証を行っており、非常に説得力があります。詳しくはこの本を読んでいただくのがよいでしょう。


本来ゴッホでないものが、貴重なゴッホの一枚の位置に上り詰め、収まってしまうことがある。≪左利きの自画像≫もその一つだ。精神を病むゴッホのイメージの類例がないためにその一枚に需要が集中し、繰り返し研究対象になり、本物のゴッホの世界を曇らせ、歪め、覆い尽くしてしまう。多くの真作やゴッホの精神状態が贋作との関連で論じられるという恐るべき現象を生み出している。

ゴッホに関しては、佐伯祐三や佐野乾山のように本人の作品が贋作とされるような悲劇は起きていないようですが、上記のようなゴッホの世界を歪めていることは確かでしょう。美術に興味のある方には必読の書だと思います。

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このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1


ゴッホの遺言―贋作に隠された自殺の真相ゴッホの復活完全版 - ゴッホの遺言 (中公文庫)ゴッホの宇宙―きらめく色彩の軌跡耳を切り取った男ゴッホの証明―自画像に描かれた別の顔の男


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mo_co さん

Nice! ありがとうございます。
ATOK良さそうですね。
by Simple (2011-08-05 20:01) 

Simple

TBM さん

Nice! ありがとうございます。
あまり詳しくないですが、「新マイルスを聴け!」面白そうですね。
by Simple (2011-08-05 20:05) 

Simple

綾小路曽根斗麿 さん

Nice! ありがとうございます。
暑い夏を乗り切るには食事が大事ですね。
by Simple (2011-08-05 20:08) 

Simple

tsworking さん

Nice! ありがとうございます。
JustGivingの目標額達成、おめでとうございます!
また、機会があれば協力させてください。
by Simple (2011-08-06 08:51) 

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