SSブログ

放射線医が語る「被ばくと発がんの真実」 中川恵一著 を読む [震災・原発]


放射線医が語る被ばくと発がんの真実 (ベスト新書)
前回、副島氏の本を紹介しましたが、今回の本も現在の福島は安全であるという主張の本です。
私は、東京大学医学部附属病院の放射線科で、27年にわたって放射線医としてがん患者の治療に携わってきました。放射線についての不安とは、つまり発がんリスクがどれくらい上がるか、ということでしょう。私は、放射線医としての長年の経験を通して、放射線被ばくと発がんの関係について、できるだけわかりやすく、具体的にご説明したいと思います。

前回の副島氏の本でも問題になった100ミリシーベルトの閾値に関して、中川氏は書きます。
人の場合、100ミリシーベルト以上の被ばくになると、発がんリスクは上昇します。つまり、この領域は明らかに「黒」です。よく100ミリシーベルトが境目と思われますが、100ミリシーベルトの被ばくで発がんの危険性は0.5%上昇しますから「立派な」黒です。
では、90ミリシーベルトや80ミリシーベルトになれば影響はないかというと、それはわかりません。100ミリシーベルトより低い被ばくの領域も「純白」とは言い切れないのです。
私は100ミリシーベルトより低い領域のどこかに、白か黒かの境目(閾値)があるのではないか、と思います。人体に有害な科学物質は、ある量を越えて体内に取り込むと健康への影響が出てくるわけです。これは、塩分にせよ、アルコールにせよ、同じです。放射線も例外でなく閾値があるのではないかと内心思っています。
よく「100ミリシーベルトの被ばくでも危険性は0.5%しか上昇しない」というような主張をする人がいますが、0.5%はそんなに低い数値ではないと思います。例えば、300世帯くらいのマンションだと住民は1,000人を超えると思いますが、このうち5人ががんになるということです。同じマンションに住む人で放射線による発がん患者が5人も出れば十分に多いと言えないでしょうか?
また、大企業だと社員が1万人を超える会社も多いと思いますが、この場合は社内で50人が発がんするということになります。

しかし、中川氏は100ミリシーベルト以下の放射線を過度に怖がるデメリットとして、以下のように書いています。
私が申しあげたいのは、100ミリシーベルト以下という、科学的なデータによる裏付けもない領域についても、「危険」と強調しつづけ、ストレスを抱えて生活習慣が悪化すると、かえって発がんのリスクを高めかねないということです。
小さなお子さんのいる親御さんの心配はよくわかります。たとえわずかな放射線であっても、できるだけ子どもを遠ざけたい。もちろんそれが簡単に叶うならば、それに越したことはありません。しかし、運動不足は、100ミリシーベルト以上にがんのリスクを高めます。
また、恐ろしいのは外部被爆よりも内部被爆だ、という主張を良く目にしますが...。
内部被ばくの危険性
内部被ばくを怖がる感情はわかりますが、1ミリシーベルトの内部被ばくが1ミリシーベルトの外部被ばくより危険ということはありません。影響はまったく一緒です。そもそもシーベルトという単位は、身体に与える影響を示すもので、一般住民の場合には、発がんを増やす指標ともいえるものだからです。(中略)
放射性物質を内部に取り込んだ場合、すべてが体内に残るわけではありません。時間が経つにつれ代謝や排せつで外部に出て行きますし、半減期によって放射線も弱まります。
内部被爆でも一番気になるのが、食べ物による内部被爆だと思いますが、以下のように書かれています。
食べ物に含まれる放射性物質
私たちが日常口にする食べ物の中にも、放射性物質が含まれています。 ホウレンソウなど野菜に含まれるカリウム40という放射性物質があります。生命の維持に欠かせない物質で、人は野菜などの摂取を通じて、日ごろからカリウム40を取り込んでいます。(中略)
カリウム40によって、年間0.2ミリシーベルト程度の内部被ばくが起こります。100年生きると、20ミリシーベルトにも達します。野菜を食べるほど、内部被ばくが増えるわけですが、野菜はがんのリスクを大きく減らすことが知られています。このことからも、カリウム40による内部被ばくを心配する必要がないことがわかります。

前回の副島氏の本にあった、広島・長崎の原爆の影響に関しても書かれています。
原爆投下の翌日に広島市や長崎市に入った人たちも被ばくしました。原爆投下後、2週間以内に爆心地から2Km圏内に立ち入った「入市被爆者」です。(中略)
ところが、非常に驚くべきことに、入市被ばく者の平均寿命を調べると、日本の平均より長いのです。また、広島市の女性の平均寿命をみると、日本一長いことがわかります。日本は世界一の長寿国ですから、つまり広島の女性は世界一長生きということになります。そればかりか、出生率の高さでは第2位、死産率の低さでは第1位です。
中川氏は、その理由を被爆手帳(被曝者健康手帳)によって無料で医療を受けられたことだとしています。 しかし、一方チェルノブイリでは逆に平均寿命が著しく下がっているのも事実です。
ロシアでは事故が起きた1986年ごろ、平均寿命は65歳だったのですが、これが1994年ごろには58歳と、7年も短くなりました。
この原因は、原発事故による避難により生きがいや誇りを失い、経済的にも追い込まれ自暴自棄となってアルコール依存になった人、うつ状態になった人、自殺した人などが増えたからと考えています。
チェルノブイリでは年間被ばく量が5ミリシーベルト以上(福島は年間20ミリシーベルト以上)の地域の人を避難させました。しかし、その避難による精神的ストレス、慣れ親しんだ生活様式の破壊、経済活動の制限などの影響の方が放射線被ばくより遥かに大きな被害をもらたしたとロシア政府の報告書で反省しているとのことです。
広島や長崎では、放射能のことは知識が無かったので住民は避難しませんでしたが、チェルノブイリでは過剰なほどの避難を行ない、それが健康に大きな影響を与えたとのことです。

中川氏は今回の福島原発事故でもチェルノブイリの教訓を生かすべきとしています。(特に心のケア)そして、現状の福島での被ばく量は健康に問題ないと判断しています。
しかし、中川氏は副島氏とは異なり、そうは言っても不要な被ばくは避けるべきとの立ち場を取り、従来の年間1ミリシーベルトを目指して除染活動を行うべきであるとも書いています。

前回紹介した副島氏の本を読むと福島原発程度の低放射線量は健康に影響がないどころか、健康に良いように読めます。もしそうなら福島原発周辺を健康に良いリゾート地として再開発して人を呼べばいいのでは?とも思いましたが、この本を読むと低くても被ばくのリスクは避けるべきとのことが書かれています。

武田先生と副島氏の主張は両極端にあり、中川氏はその中間の立場のように思います。
みなさんにも一読をお勧めします。

ブログランキングに参加しています。記事が気にいったらクリックをお願いします。人気ブログランキングへ

このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1


放射線のひみつがんの練習帳 (新潮新書)がんの正体専門医が教える がんで死なない生き方 (光文社新書)ビジュアル版 がんの教科書 自分を生ききる―日本のがん医療と死生観ドクター中川の“がんを知る”


nice!(6)  コメント(9)  トラックバック(0) 

nice! 6

コメント 9

Simple

tsworking さん

Nice! ありがとうございます。
最近、寒い日が続きますね。
健康管理に注意しましょう。
by Simple (2012-01-15 15:32) 

Simple

マチャ さん

Nice! ありがとうございます。
率川神社、漢国神社、林神社、どれも興味深いですね。
特に林神社、中国人が死んでも神様になれるんですね。
井沢説で言うと怨霊になることを恐れたのか、という風になりますが、興味をそそられます。
by Simple (2012-01-15 15:43) 

Simple

mo_co さん

Nice! ありがとうございます。
うちは子供が大きい(大学生、高校生)のでAQUA4000ですが、エアウォシュは使ったことがありません。
効果ありそうですね。
by Simple (2012-01-15 23:54) 

Simple

今日1日だけでこのページが1,000アクセス以上あって驚きました。
どうやら 中川先生の team_nakagawa(東大病院放射線治療チーム)のtwitter で紹介されたようです。

たくさんのご訪問、どうもありがとうございます。
by Simple (2012-01-16 22:38) 

Simple

TBM さん

Nice! ありがとうございます。
ブラジルでも格闘技が熱いんですね。
by Simple (2012-01-18 22:56) 

Simple

alba0101 さん

Nice! ありがとうございます。
今日は埼玉も朝から雪でした。
昼からは雨に変わりましたが、久しぶりに傘を使いました。
by Simple (2012-01-20 22:23) 

Simple

タッチおじさん さん

Nice! ありがとうございます。
茂木とオートポリスは行ったことがないです。
by Simple (2012-01-21 22:40) 

todkm

福島事故直後のIAEA緊急理事会でさえ、ロシア政府は
原発推進と輸出産業化を明言しています。

そんなロシア政府が同じく昨年公刊したチェルノブイリ事故
25年の報告書が、「健康被害は原発が主因でした」と
書くはずがありません。

外国政府の公刊する報告書は、その国の外交や産業に
都合のいいように書かれているのが、むしろ当然であって、
そこを割り引いて読み解く必要があります。

中川恵一さんは、あまりにロシア政府の報告書を、そのまま
政治的に中立だと信じ過ぎています。

日本政府だって、今まで公式に原発は安全だ安全だと
公表し続けてきたのが、実はそれほど信用できなかった
と分かったわけです。

なのに福島事故の後で、外国政府の報告書をそのまま
信じることが、どうしてできるでしょうか。

Simpleさんはどう思われますか?

僕の考え方が、ひねくれてますかね。 (^_^;)

by todkm (2012-01-24 23:45) 

Simple

todkm さん

コメントありがとうございます。ブログも読ませて頂きました。

ご指摘の通り、どこの国でも政府の出す報告書は何らかのバイアスがかかるのは当然だと思います。
でも、ここで重要なのは、100mS/年以下が安全なのか否かの判断だと思います。これに関しては、ある程度事実に基づいた議論がされているように思います。中川氏の引用している部分も医療的なデータの部分だと思います。

もし、100mS/年以下が本当に安全なのであれば、今回のように77京ベクレルを周辺に撒き散らした事故でも福島県のほとんどの地域は安全だと言えると思います。もしそうであれば、原子力発電所は、実はかなり安全だと言えることになり、日本政府が言っていた「安全」は真実だということになります。
私はここが一番重要だと思っています。

今後ともよろしくお願いします。

by Simple (2012-01-25 23:02) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。