ソニースピリットはどこに行った? さよなら! 僕のソニー 立石泰則 著 を読む [ビジネス]
今では平気で製品の安売りをして、他社と同じような製品を出しているソニーですが、私たちの世代は、少なからず「ソニー神話」、「ソニー信仰」の影響を受けています。
ちょっと高くて値下げしないけど、性能やデザインがいいソニー製品、秋葉原でも買えないソニー製品をあこがれを持って見ていました。
しかし、今のソニーにはそのようなブランド力はないようです。なぜそうなってしまったのか、ということを著者の視線から書いたのが、この本です。
ソニーに関しては、これ以前にも本社の経営企画部からの視点で書かれた、竹内 慎司氏の「ソニー本社六階」やVAIOの開発現場の視点で書かれた宮崎琢磨氏の「技術空洞」などが書かれていますが、今回紹介する立石氏の本はあくまでも外からみたソニーが書かれています。
私たちはソニーの製品を見て「ソニースピリット」を感じていましたが、その「ソニースピリット」に関して元副社長だった大曾根氏は、次のように語ります。
あえて言うなら、私は『ソニースピリットは、井深さんの無理難題の産物だ』と言いたい。だって、井深さんに無理難題を強いられながら、必死になってやっと完成させて発売したら、お客さんは『まさにソニースピリットを体現したような商品だ』なんて言うでしょう。創業者の井深氏、盛田氏がいなくなった現在、そのソニースピリットはあるのでしょうか?
Apple社の故スティーブ・ジョブズは、ipodやiphoneの製品開発に深くかかわり、とても無理と思えるような短い開発期間で開発をさせ、「電源SWはいらない」、「ユーザーに3回以上ボタンを押させるな」など設計者に対して細かい要求を出していました。そして、どうしてもできないという設計者に対しては、
「状況は分かった、でも僕のためにもう一度トライしてくれないか」と言って、実現させてきたと言われています。このようにAppleの製品には細部にこだわるジョブズの精神が込められていると言ってよいでしょう。これはソニー信者でもあったジョブズがすでにソニーにはなくなってしまった「ソニースピリット」を継承していたように思えます。
さて、ソニーと言えば「ウォークマン」ですが、その開発にも物語があります。
創業者の盛田昭夫氏が役員会でウォークマンの商品化を発表したとき、ほとんどの役員が「テープレコーダー(録音機)は売れても、テーププレーヤー(再生専用機)は売れません」と言って猛反対している。(中略)現在のソニーにはこのような考えが継承されているのでしょうか?
ウォークマンのアイデアは、もともと井深大氏が海外出張のさい、飛行機の中でステレオ音楽を聴きたいとソニーの技術陣に求めたことから生まれたものだ。(中略)
案の定、ウォークマンの広告宣伝を担当する社員は二人しかおらず、広告宣伝費も与えられなかった。(中略)その河野氏は、当時を振り返り、盛田氏が問わず語りに話した言葉がいまも忘れられないという。
「河野君、マーケット・クリエーション(市場を作ること)というのは、マーケット・エデュケーション(市場を教育すること)のことなんだ」
私は約25年前、まだまだ「ソニースピリット」のある製品を出していたソニーの某工場に3カ月ほどかよったことがあります。(ソニー社員ではありません)「ソニー信仰」を持っていた私ですが、技術者の目で見ると当時でさえ、最先端の技術開発をやっていた訳ではないと感じていました。例えば、当時の技術トレンドとして映像信号処理技術がアナログからデジタルに切り替わる時期でしたが、その技術に対して積極的に取り組んでいたのは、ソニーではなく松下電器(パナソニック)の方で、先を越されていた印象がありました。
しかし、デザイン、小型化技術や製品としての完成度や魅力はソニーの製品の方が圧倒的にありました。私は、ソニーの工場に行ってその理由が分かったような気がします。とにかく、工場にいる技術者のレベルが高いのです。回路の設計などは本社や工場の設計者が行っていますが、工場ではその技術者たちが設計図を書き直したり、回路基板を書きなおして生産効率があがるような工夫を行っていました。当時のソニー製品の完成度の高さは、このような強い「現場力」にあったのだと痛感しました。
しかし、このように強かったソニーの工場の現場力は、大賀時代の後に続く、出井時代、ストリンガー時代となり、どんどん無くなっていったように思います。自社の独自技術の開発や製造を軽視し、ネットやコンテンツを重視してきたソニーに復活の道はあるのでしょうか?
2月2日に次期社長兼CEOへの就任が発表された平井氏は、テレビ事業の立て直しを表明していますが、今の状況を打開できるのでしょうか?
この本を読むと、ソニーがなぜ今のようになってしまったのかが見えてきます。この本に書かれていることがすべて正しいとは言えないと思いますが、少なくともソニーに関して興味ある人には必ず読んで欲しいと思う本です。また、上にあげた「ソニー本社6F」、「技術空洞」もお勧めの本です。
ソニーは、井深大氏と盛田昭夫氏が昭和21年に創業した東京通信工業が母体です。そのさいに井深氏が書きあげた会社設立趣意書は有名です。
会社設立の目的とにかく、ソニーには井深氏のこの「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」の精神を忘れずに、私たちをワクワクさせるような製品を出して欲しいと思います。
一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設(以下略)
ブログランキングに参加しています。記事が気にいったらクリックをお願いします。
このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1
2012-02-25 21:39
nice!(5)
コメント(7)
トラックバック(0)
父がsony崇拝していたので、自然と私も・・・
そんなわけでso-netなんですが、こちらも・・・
by mo_co (2012-02-27 16:54)
mo_co さん
Nice! & コメントありがとうございます。
そうですよね! お父さん世代は絶対にソニー信者なんです。
ソニーには復活して欲しいです、絶対。
by Simple (2012-02-27 22:33)
マチャ さん
Nice! ありがとうございます。
徒歩30分で垂仁天皇陵に行けるロケーション、うらやましいです。
野見宿禰は、「空手の神様」だったのでは? との意見もありますね。
キックもありますし。(笑)
by Simple (2012-02-27 22:42)
tsworking さん
Nice! ありがとうございます。
チャーミングセール、知りませんでした。
家族の者は知っていました。
もう終わってしまったのですね。
by Simple (2012-02-27 22:53)
「技術空洞」は読みました。
(ナイスありがとうございました)
こちらも読んでみたいと思います。
by TBM (2012-02-28 00:34)
TBM さん
Nice! & コメントありがとうございます。
「技術空洞」は、私も大好きな本です。
オーディオブックで何度も聞きました。
現場の技術者視線でのソニーの変貌が良く分かりますよね。
by Simple (2012-02-28 22:04)
タッチおじさん さん
Nice! ありがとうございます。
小説書くのってすごいですね。
私にはとてもできません。
by Simple (2012-02-28 22:38)