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なぜ裁判官は和解をすすめるのか? 狂った裁判官 井上薫著 [裁判に関して]


狂った裁判官 (幻冬舎新書)
私は、約6年前に仕事で日本の民事裁判を経験して、
日本の裁判って、結論ありきでは?
と疑問を持ちました。結局、その裁判は裁判官のすすめで和解したのですが、裁判官の心証(裁判に対する判断を当事者に伝えること)を聞く限り、私たちの主張を書いた膨大な書類(準備書面)をきちんと読んでいるようには思えませんでした。
一緒に戦った同僚たちは、「裁判でそんなことはないだろう!」と言っていましたが、納得のいかなかった私は、それを裏付けるような本が無いかどうか調べてみました。その時に、①裁判官 ②弁護士 ③一般人 のそれぞれの目から見た裁判に関した本で調べました。それが以下の本です。

①狂った裁判官 井上薫著 (今回紹介する本です)
②反対尋問の手法に学ぶ嘘を見破る質問力 荘司雅彦
③弁護士なしの素人が専門家に勝った 裁判裏日記 ヨシダトシミ著

これらの本を読んで、「やっぱり日本の裁判は結論ありき」なんだと改めて感じた次第です。

さて、この本の著者である井上薫氏の経歴です。
1954年東京生まれ。東京大学理学部化学科卒、同修士課程終了。民間の研究所に就職後、独学で司法試験に挑戦して合格。86年判事補、96年判事任官。日本の司法システムの問題点を鋭くえぐる発言を続けた結果、2006年、横浜地裁判事を最後に退官を余儀なくされる。

さて、この本は最初からショッキングな話で始まります。
朝の満員電車で、近くの女性から「この人、痴漢です!」とにらみつけられる。「私はしていない。つり革につかまっていたんだ」と反論しても聞いてもらえない。いきさつをきちんと説明すれば疑いは晴れるだろうと思ってその女性と一緒に警察に行ったら、そのまま逮捕されてしまう。そして、取り調べでもやっていないと繰り返し述べても聞き入れられず、起訴(検察官の要求で裁判にかけられること)されてしまいました。
さて、刑事裁判で起訴されたこの男性が有罪になる確率はどれくらいだと思いますか?

これは、映画「それでもボクはやっていない」でも有名になりましたので、ご存じの方も多いと思いますが、「99.9 %有罪になる」が正解です。つまり、1,000回起訴されたら、999人は有罪となり、わずかに1人だけ無罪を勝ち取ることができるということです。 (この本では、99%と書いてありますが、井上薫氏の他の本には、「もし起訴されたら99.9%有罪になる」という本があり、実際には99%ではなく、99.9%のようです)
つまり、日本の場合、起訴されたら最後、有罪というレッテルをはがすのはほぼ不可能なのです。全く身に覚えのない痴漢行為であっても、被害者を名乗る女性が主張すれば、弁解は許されない。有罪に身を任せるしかない。男性ならば誰の身にふりかかってもおかしくない悲劇です。

私も初めて知った時は信じられませんでしたが、日本の司法制度ではそうなるというのが現状のようです。井上氏は、刑事訴訟の第一回法廷が開かれる前、裁判官の手元に起訴状しかない状況で、有罪の判決書をあらかじめ書いていた裁判官を見たことがあるそうです。つまり、99.9%は有罪なので、結論ありきで効率よく仕事をしようということなのでしょう。かなり恐ろしい話ですね。
弁護士たちはその事を熟知しているので、満員電車に乗る時は必ず両手を上にあげるようにしていると聞いたこともあります。
被告人は有罪が確定するまで無罪と推定される」という原則があります。これは、刑事裁判のイロハといってよいくらいの基本原則です。ところが、この原則がいつの間にか逆転し、実質的には「被告人の有罪推定の原則」が常識化しているといってよいほどの状況なのです。

そして、その現状を前提として、それをはずれるような場合には、検察官、裁判官ともに大きなプレシャーと人事的な不利益を被るような仕組みとなっており、それが現状を変えさせない要因ともなっているようです。
さらにこうした極度に高度の有罪率を鑑みると、検察官の立場からすれば、有罪判決を受けて当たり前といえます。万一、無罪判決を受けると、それはめったにないドジとみなされます。当然、人事上の不利益(たとえば左遷)は避けられません。無罪判決を三回受けると、検察官をやめる(自主的にやめるか、ひどい左遷を受ける)という話を耳にしたことがあるくらいです。(中略) つまり、こういう高い有罪率を前にすると、裁判官も無罪を出すことには、強い緊張感を抱くことになりがちなのです。なぜなら99%が「有罪」なのですから。残りの1%の判断を自分自身が下す際、その判断が果たして本当に正しいのか、自問しながら進むことになります。
同様に、裁判官も自分の下した判断に間違いがあれば、人事上の不利益をこうむることになるとのことです。そうなると裁判官も冒険はせずに無難な判断をする傾向になってしまいます。
これに反し、一審で出した無罪判決が検察官に控訴されたとしましょう。控訴審(二審)で最終的に無罪に判断が覆された場合には、一審の無罪判決は間違いだったということになり、無罪判決を出した一審の裁判官は、人事評価上、不利益にカウントされることを覚悟しなければなりません。(読者も、ご自分の職場で、自分のした仕事が上司に否定された場面を連想してみてください。むろん、人事資料は非公開ですから、資料で裏付けることは無理ですが、ここまでの推測は読者の社会常識に照らし一応の納得が得られるのではないかと思い、これを前提にさらに話を進めます)
自分の判決が控訴審で支持されたか取り消されたかで一喜一憂するのが、一審裁判官の現実です。

一方、民事裁判は約半分が和解で解決するとのことです。それは、裁判官が和解をさせたいからだと井上氏は主張します。その一つの理由は、裁判官が楽をしたいからだそうです。
日ごろ仕事に追われている裁判官としては、この事件で判決を書いたら丸三日かかる、そうすると次の土日はつぶさなければならなくなるから、今日の和解期日で何とか和解を成立させることはできないかと和解の道を探るというのは、勤労者としてごく普通の心理でしょう。要するに、楽をしたいわけです。
現状の裁判官一人あたりの仕事量を鑑みると、民事訴訟の半分は和解で終えないと、判決起案の山となり、処理しきれなくなる可能性が高い。だから、裁判官も、和解に必死となるのです。内容にかかわらず、どんな事件でも、どんな段階でも、何度でもしつこく和解を勧める。しかも、強く勧める裁判官が多いのは、「和解のほうが楽」という理由があってこそなのです
そして、もう一つの理由は、和解すると上訴できないため、上級審で自分の下した判断が否定されて人事評価に影響を受けることがないからだそうです。
次に裁判官が和解を勧める動機は、和解が成立すると上訴できないということが挙げられます。(中略)
上訴されると、その裁判官にとって、人事上のマイナスとなる点を忘れてはいけません。というのは、判決に対し上訴が提起されるということは、当事者がその判決に満足していないことを意味します。だから、その裁判官の仕事ぶりに疑問符が付くというわけです。もし、上訴審判決でもとの判決内容がひっくり返されたら、もとの判決を書いた裁判官は、最低の人事評価を覚悟しなければなりません

そのため、裁判官はあらゆる手段を使って原告、被告に対して和解を勧めます。そのテクニックの一つが、以下のものです。

裁判官の脅しのテクニック
①理論的に説得する:法理論的にあなたの主張は無理ですよ、証拠が少ないからあきらめるようにと説得する。
②感情的に説得する:たとえば、男女間のもつれの場合には、楽しかったつきあいの様子を聞き出し、「思い出を大切にしてこの件はこの額で一件落着しましょう。」と説得する。
③脅しで説得する:もし和解に応じないとこんな不利益を被りますよ、といって説得する。「判決したらあなたの負けですよ」などと言われると慣れていない人たちは裁判を続けることに不安を感じます。しかし、これが高じると、とんでもないことになります。

双方の当事者に「判決ならあなたの負けですよ」と言ってしまったために、和解が成立できずに、判決を出す段になって書けなくて困っている裁判官がいたこともあります。
逆に和解成立のために、低姿勢に徹する裁判官もいます。これは、聞いた話ですが、「和解してくれるなら、土下座してもいい」と当事者の前で言った裁判官もいるということです。

裁判員制度が始まりましたので、これまでのように「裁判なんて自分には関係ない」とは言っていられない状況になりました。裁判について面白く学ぶにはとても良い本だと思います。

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このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1


原発賠償の行方 (新潮新書)司法のしゃべりすぎ (新潮新書)裁判官が見た光市母子殺害事件―天網恢恢 疎にして逃さず平気で冤罪をつくる人たち (PHP新書)つぶせ!裁判員制度 (新潮新書)もしも起訴されたら99.9%有罪になる―無実でも有罪になる「密室裁判」というシステム (日文新書)「捏造」する検察 (宝島社新書)


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コメント 7

Simple

TBM さん

Nice! ありがとうございます。
ナビスコカップ、レッズは負けたんですね。
セレッソの清武は私も注目していますよ。
by Simple (2012-04-19 22:28) 

Simple

マチャ さん

Nice! ありがとうございます。
東大寺! 大好きです。
100mの高さがあったという七重の塔が残っていれば最高でしたね。
もう一度行ってみたいです。
by Simple (2012-04-19 22:34) 

Simple

tsworking さん

Nice! ありがとうございます。
ポールウォーキング、読めば読むほど興味が湧いてきますね。
by Simple (2012-04-20 23:18) 

Simple

mo_co さん

Nice! ありがとうございます。
私はiphoneで動画を送ったことありません。
すごいですね。
by Simple (2012-04-21 20:39) 

Simple

くらいふ さん

Nice! ありがとうございます。
千鳥ヶ淵の桜、きれいですね。
石垣と桜は絵になりますね。
by Simple (2012-04-21 20:43) 

Simple

幸せ家族 さん

Nice! ありがとうございます。
開運株が上がっているとは知りませんでした。
by Simple (2012-04-23 22:42) 

Simple

こっちゃん さん

Nice! ありがとうございます。
「まひる野」の先が面白そうですね。
by Simple (2012-04-25 22:12) 

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