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オリンパスはどこへ行く? サムライと愚か者暗闘 オリンパス事件 山口義正著を読む [ビジネス]

サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件
マスコミ的には昨年の10月に社長のウッドフォード氏が解任された事で注目を集めたオリンパスの巨額損失の穴埋めのための不可解な企業買収ですが、この事件を2年前から追い続けてきた山口義正氏の力作です。そして、英国人であるウッドフォード氏のジョンブル魂に火を付けたのが、この山口氏の記事だったのです。


始まりは、山口氏とオリンパスに勤める深町氏(仮名)との何気ない会話でした。
2009年8月
「ウチの会社、バカなことをやっているんだ・・・」
深町の言葉に何か意を決したような響きがある。後ろを歩いていた私は無言で「?」と、次を促した。
「売上高が二億~三億しかない会社を、三百億円近くも出して買ってんだ。今は売り上げも小さいけど、将来大きな利益を生むようになるからって。バカだろ?」(中略)
「いくらなんでも、そんな話はありえないだろ。何かよほどの成長分野を見つけて買ったんじゃないのか?」(中略)
「でもウチの本業とは関係ない会社なんだ。しかも営業赤字でさ」

この会話から始まったオリンパス事件に関して、この本に書かれている内容をまとめてみました。
2009年8月 オリンパスに勤める友人からオリンパスの不可解な会社買収(買収額は700億円で翌年に損失処理されている)の話を聞く。
2011年2月 友人の持っている資料をすべて渡される。資料はすべて重ねると電話帳一冊分の分量があった。
2011年4月 菊川社長が会長となり、英国人のマイケル・ウッドフォードが社長となる。
2011年6月中旬 山口氏、記事を書くべく雑誌を選定し、月刊誌のファクタを選ぶ。
2011年7月20日 オリンパスの記事を掲載したファクタ8月号が発売になるが、株価は前日比50円高で、記事に対しては無反応。山口氏は「週刊東洋経済」、「アエラ」に企画書を送るが、無視される。
2011年7月31日 山口氏、ウッドフォード社長にファクタ8月号の記事を英訳して見せる
2011年8月2日 ウッドフォード社長と菊川と財務担当の森久志副社長と三人でランチミーティング。ファクタの記事に関して質問をする。菊川は、「君は日本のことがわかっていない。何も心配はいらない。タブロイド誌独特のセンセーション好きなジャーナリズムだ。君は忙しい。この件について気にすることはない」とのコメント。
2011年9月20日 山口氏、ファクタ10月号で買収資金の流出先をテーマに第二弾を書く。
2011年9月29日 ウッドフォードと菊川・森の三者で会談。10月1日付けでウッドフォード氏が人事提案権のあるCEOをj引き継ぎ、菊川氏がCEOをはずれ、取締役会長のみとなることで合意した。
2011年10月11日 ウッドフォード、菊川に完全な退陣を求める書簡を送る。
2011年10月14日 臨時取締役会でウッドフォードが社長、CEOから解任される。「組織の意思決定プロセスを無視した独断専行的な経営判断で組織間の連携を損なった。」「日本の文化的風土に配慮を欠き社員からもこのままでは働けないとの声が上がった」と菊川会長のコメント。
2011年10月17日 ウッドフォードは、英国に帰国し、ファイナンシャル・タイムズやウォールストリート・ジャーナルの取材に応じ、英国の重大不正捜査局(SFO)にオリンパスの企業買収に不正な支出があったことを通報した。欧州ではオリンパス問題が加熱して各国、連日トップニュースとなる。
2011年10月20日 山口氏、現代ビジネスにオリンパス問題を執筆する。
2011年10月26日 社長兼会長の菊川が退陣し、菊川の子飼いの部下である高山修一が新社長となる。新宿京王プラザホテルで記者会見を開くが、ファクタは出席を断られた。
2011年10月30日 英ファイナンシャル・タイムズに野田首相のインタビューが掲載される。「今回の騒動はルールに従う市場経済国として日本の評価を貶める恐れがある」と懸念を表明。
2011年11月8日 格付投資情報センターがオリンパスの発行体格付をAからBBBプラスに引き下げる。12月14日に最もj低いBBBマイナスに格下げとなる。 週刊朝日に企業買収は投資の隠し損失を穴埋めすることが目的であると出し抜かれる。この日、高山新社長が過去の有価証券投資での損失隠しを認めた。

結局この事件は、バブル崩壊後に多大な損失を出したオリンパスが、それを取り戻すためにハイリスク・ハイリターン商品などに手を出し、2003年で1,177億円に上る損失を企業買収を隠れ蓑として補てんしていたというものです。
デジタルカメラの老舗として、医療用の内視鏡やICレコーダーなどで70%以上のシェアを誇るオリンパスが、どうして1,200億円程度の額(会社の規模に対して)でこんな不正を働いていたのでしょう。本業で頑張れば何とかできる額ではないのでしょうか?
状況は違うにしても、ソニーは大賀社長から出井社長に交代する時に1兆5,000億円にのぼる借金があったそうですが、マスコミ的には隠していたもののきちんと社外にも公開していました。

私はTVや新聞でのオリンパス報道でこの事件を知りましたが、社長であるウッドフォード氏が解任されたことを知り、何やらおかしな雰囲気を感じていました。この事件を2年も前から地道に調査を続け、最終的にはオリンパス問題を公開して認めさせた山口氏の執念というか意気込みには頭が下がります。

問題の一つはオリンパスの上層部が会社を私物化していたということのようです。菊川氏は10月26日に社長と会長を退任させられた後、1か月以上経っても社長室を占領していたそうです。また、コンプライアンスのTopに菊川氏がいて内部告発などがあった場合、自分の所に情報が集まるようになっていたそうです。(ほとんどの会社がコンプライアンスのTopは社長でしょうから、Topの不正を監視する別の仕組みが必要だということですね)
さらに、事件が報道された後も、資料毎に印の位置を変えたり、文面を微妙に変えるなどの工作を行って情報の流出経路を調べていたことも書かれています。

もう一つのポイントは、このオリンパス問題に対する大手マスコミの無反応です。山口氏が月刊氏のファクタから記事を出しましたが、他のマスコミは何の反応も無かったそうです。また、「週刊東洋経済」、「アエラ」に企画書を送ったそうですが、完全に無視されたそうです。
ウッドフォード氏が解任直後に「恐ろしかったのは、オリンパスの疑惑をファクタが報じた後も日本国内の主要なメディアは何も報じようとしなかったことだ」と述懐している。
一体これは何なのでしょうね? 現在のマスコミには、その重要な役割である政府や企業の不正を監視する、という機能はほとんどないと言っていいのでしょう。
東電の原発事故の時もそうだったですが、企業から多くの広告収入を得ているマスコミがお金をもらっている会社に対して不利になるような記事は書けないということなのでしょう。

最後に、英国人である元社長、CEOだったウッドフォード氏の言葉を最後に紹介します。
日本人はなぜサムライとイディオット(愚か者)がこうも極端に分かれてしまうのか
見の危険も顧みずに不正を追究しようとするサムライもいれば、遵法精神に欠け不正を働いたり、何の疑問も持たずにこれを幇助したりするイディオットもいる。

今回の事件に興味ある方にはお勧めの一冊です。

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解任 (ハヤカワ・ノンフィクション)オリンパスの闇と闘い続けて


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コメント 7

Simple

mo_co さん

Nice! ありがとうございます。
FOMAからXiへの変更はSIMカードの互換がないんですね。
お疲れ様でした。
by Simple (2012-05-20 22:17) 

Simple

TBM さん

Nice! ありがとうございます。
柏レイソル戦、おしかったです。
清武選手がいなくなるとこれから厳しいですね。
by Simple (2012-05-21 23:47) 

こっちゃん

こんばんわ。
この本は良いですね。Sinpleさんが紹介する本はやっぱ凄い。
参考にさせていただきます。
記事にあったように私も日本のマスコミはあまり信じていません。
事件等があったことだけを教えてもらい、本当に気になれば自分なりに調べます。
最近、日本の世論ってマスコミに作られている気がするんですよね。
またお邪魔します。
by こっちゃん (2012-05-22 19:55) 

Simple

こっちゃん さん

Nice! &コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、日本のマスコミは信用できません。
本当のジャーナリストが少なくなりましたね。
by Simple (2012-05-22 22:04) 

Simple

tsworking さん

Nice! ありがとうございます。
ポールウォーキング、一度やってみたいですね。
by Simple (2012-05-25 21:58) 

Simple

だいだらぼっち さん

Nice! ありがとうございます。
うちもいろいろな勧誘の電話しか来ないです。(笑)
by Simple (2012-05-26 23:00) 

Simple

タッチおじさん さん

Nice! ありがとうございます。
オリンパスの問題は日本的な経営の縮図と言えるような気がします。
by Simple (2012-06-16 22:54) 

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