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極真会館はなぜ分裂したのか? 大山倍達の遺言 小島一志、塚本佳子著 を読む [格闘技]


大山倍達の遺言
この本は、極真会館の創始者である故大山倍達館長の突然の死から始まった極真会館の分裂騒動をまとめた本です。全編525ページにも及ぶ分厚い大作で、ようやく読み終えました。
本書の出版に関しては、小島氏のブログに2、3年前からの話が出されており心待ちにしていましたが、2012年4月にようやく出版されました。その間、出版社が講談社から新潮社に変っており、いろいろな事があったことが想像できます。

1994年4月26日に極真会館の創始者である大山館長が70歳で亡くなりました。突然の死で本当にビックリしました。
94年から95年にかけては、4月に大山館長、7月には合気道養神館の塩田剛三氏、そして大山館長の死から1年経った4月には芦原英幸氏が亡くなり、個人的にとても残念でした。私は大山館長の死から松井館長になり分裂を繰り返す極真会館を格闘技系雑誌などを通じリアルタイムで見ていました。そして短いとは言え一時は極真会館の地方支部に通っていた極真会館の大ファンであった者としては、本書は本当に読むのが辛く、暗くなるような内容です。大山館長の元で一緒に汗を流していた仲間たちが、どんどん分裂して離れているのは本当に悲しいことです。

極真会館の分裂は、大山館長の死の直後から始まりました。大山館長は肺がんの末期だったそうで、聖路加国際病院に入院されていましたが、当時側近だった梅田嘉明氏の提案によって遺言書が作成されました。これは、「危急時遺言書」という形の特殊なもので、梅田氏(医師)、大西靖人氏(故人:第15回全日本大会優勝者)、米津稜威雄(弁護士)、米津等、黒沢明(館長の友人)の5人が証人となっていました。遺言書には大山館長の後継者は松井章圭氏と明記されており、これが大山館長の意志として松井新館長が誕生しました。
後に裁判でこの遺言書は認められることはありませんでしたが、このブログでも書いているように私は裁判の判断をあまり信用していませんので、それはどうでもよいことです。とにかく大山館長が自分の後継者として考えていたのは松井氏であったことは確かだと私は考えます。
松井館長は選手としては、17歳の頃から大会に出場して「牛若丸」と異名を取り、「華麗なる組手」の実践者として大山館長の寵愛を受けていました。そして第17回大会、第18回大会、第4回世界大会を連覇し、さらに極真会館の荒行である「百人組手」の完遂者でもあります。

私は、もちろん松井館長を支持しています。昔からファンだったこともありますが、大山館長が生前、後継者に関して、以下のように語っていたことを知っているからです。
大山倍達の意思を継ぐべき極真会館の後継者には、ふたつだけ条件があるんです。
・若いこと。三十代であることが第一の条件。
・第二は強いこと。圧倒的に強い人間でなくてはならない。
私の後継者は世界チャンピオンでなければならない。できれば百人組手を達成している者がいい。

しかし、31歳という若さであり支部長としては末席にいた松井氏が極真会館の館長という最盛期には123カ国1,200万人(かなり誇張はあると思いますが...)の頂点に立つことは、空手界という超縦社会ではかなり厳しいものがあったことは想像できます。普通の一部上場の会社でも、平の取締役から社長に抜擢という話はよくありますが、いくら能力があっても31歳の若者が一気に社長になることはあり得ないでしょう。そのため、極真会館は10年以上にわたって分裂を繰り返すことになります。

特に、高校生の頃から大山館長の寵愛を受けていた松井氏に対して、当時全盛期であった三瓶啓二氏が中心となっていた三瓶グループのメンバーたちは、当時の松井氏に対して反発し、反松井の立場を取っていたそうです。その感情が尾を引いて、大山館長の死から1年後に松井館長に対してクーデターを起こし、「支部長協議会派」として松井派と対立することになります。さらに松井館長を絶対に認めない高木薫(北海道支部長)氏は大山館長の妻、娘たちを担いで「遺族派」を結成します。(後に「支部長協議会派」と合流)
この三瓶氏と高木氏は大山館長存命の頃から権力志向が強かったと聞いています。
しかし、大山館長の二代目の条件である世界チャンピオンは、この当時、
第1回:佐藤勝昭、第2回・3回:中村誠、第4回:松井章圭、第5回:緑健児
の4人しかいません。さらに、この中で百人組手を達成しているのは松井館長だけです。これを考えただけでも、松井館長の正当性は明らかであり、高木氏、三瓶氏には資格がないことになります。

これまで格闘技雑誌などを通して知識を持っていましたが、この本を読むと松井館長にも若さゆえの思い込みや気負いによる間違いや不手際が多くあったことが分かりました。それらのミスは敵対していた人達にとっては感情的に絶対許せないことだったのかもしれません。
大山館長が存命中も支部長たちの館長に対していろいろと不満はあったようですが、大山倍達という絶対的な存在がその声を抑えていたようです。その大きな大山倍達という重しが取れて、一番若い松井氏が館長になったのですから、すんなりとうまく行かないのは当然だと思います。この本を読むと、組織運営というのは本当に難しいと感じます。松井館長に対して、支部長協議会派は「透明で民主的な会館運営を!」と主張していましたが、結局、支部長協議会派も三瓶氏たちの「不透明で非民主的な運営」が理由で離反者が続出しました。

あれから20年近い月日が流れ、松井館長もそろそろ50歳に手が届く年齢になりました。これからが本当の勝負だと思います。

極真会館に興味ある方には必読の書です。

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大山倍達については、以下もご覧ください。
・大山倍達の偶像崩壊! 「添野義二 極真鎮魂歌: 大山倍達外伝」 小島一志著 を読む 
・大山倍達と民族運動 「大山倍達正伝」 小島一志、塚本佳子著 を読む その1
・大山倍達と力道山の伝説 「大山倍達正伝」 小島一志、塚本佳子著 を読む その2
・ケンカ十段! 芦原英幸正伝 小島一志著 を読む その1
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・笹川良一氏と大山館長の生き方について 悪名の棺 笹川良一伝
・日本の空手界を変えた名著! 「空手バカ一代」を読みなおす 
・ケンカ道 その”究極の秘技”を探る 篠原勝之著
・空手超バカ一代  石井和義著

このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1

大山倍達正伝伝統武術という未来兵器 KURO-OBI 無敵の黒帯を目指せ! 第2号 かつてカラテは地上最強だった DVD付芦原英幸伝 我が父、その魂




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Simple

ハマコウ さん

Nice! ありがとうございます。
「中世の東海道をゆく」、興味深いですね。
「幾万人か知らず流される」というの東北の
津波を思いだしますね。
by Simple (2012-06-09 19:20) 

Simple

mo_co さん

Nice! ありがとうございます。
スーパーコンパスくるんパス、いまいちですか?
使ってみたいですね。
by Simple (2012-06-10 23:46) 

Simple

こっちゃん さん

「もっとおもしろくても理科」いまいちでしたか...。
読まんほうが良いというのも重要な情報です。
by Simple (2012-06-10 23:51) 

Simple

mino さん

Nice! ありがとうございます。
「先送りできない日本 ”第二の焼け跡”からの再出発」
日本の国債の問題は頭が痛いですよね。
でも、もっと問題なのは購入した米国債を売れないことですよね。
米国債を売ったら「宣戦布告とみなす」と米国から言われているそうなので。
by Simple (2012-06-13 23:26) 

Simple

TBM さん

Nice! ありがとうございます。
元セレッソの香川のマンUでの活躍、楽しみですね。
by Simple (2012-06-13 23:27) 

Simple

タッチおじさん さん

Nice! ありがとうございます。
極真会館の分裂には本当に心が痛みます。
何とか一体に戻って欲しいと思います。
by Simple (2012-06-16 22:59) 

Simple

tsworking さん

Nice! ありがとうございます。
ロングブレスダイエットですが、私は空手の「三戦(サンチン)」の呼吸法に似ていると思いました。そうです、関根勤が千葉真一の物真似をする時にやる「かぁ~っ」とやる呼吸法です。(笑)
ロングブレスダイエットをTVで見てから朝、晩、サンチンの型で「かぁ~っ」とやっています。確かにお腹周りは少し締まったような気がします。
by Simple (2012-06-17 22:10) 

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