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笹川良一は本当に悪人だったのか? 悪名の棺 笹川良一伝 工藤美代子 を読む [社会]


悪名の棺―笹川良一伝
今回は、まとめるのが難しい本でした。

みなさんは笹川良一氏に対してどのようなイメージを持っているでしょうか?

私のイメージは以下のようなものでした。(学生運動が若干残っていた時代に刷り込まれたものです)
①戦争犯罪人で、日本の大物たちとコネを作るためにわざと戦犯となり、巣鴨に入った。
②児玉誉士夫をあやつる右翼、政財界の黒幕であり「日本のドン」である。
③競艇で儲けた汚い金で私腹を肥やした。
④TVで母親を背負ったり、「一日一善」といった標語を唱え、自らの宣伝を行っていた。

このようなイメージは、ある程度みなさんと共通していると思います。①~④のうち事実(意味不明)だったのは、④くらいのものだったようです。それだけマスコミを通じた一方的な洗脳、刷り込みがあった影響だと思われます。特に③に関しては、ひどい刷り込みですよね。ギャンブルでお金を稼ぐのがダメなら、競馬、競輪などのTopも同じように「汚い金」を稼いでいるということになりますが、そのような話は聞いたことがありません。
そのような暗い負のイメージの見直しを行ったのがこの本です。

笹川良一氏は、大阪の比較的裕福な造り酒屋の長男として生まれました。笹川氏がまだ子供で家業を手伝い始めた頃、アメリカから飛行機を買って持ち帰ってきたが金がないため関税から引き取れずに困っている飛行士に対して父に懇願して金を出させ、その飛行士に約2年間飛行機の修理や操縦を学んだとのことです。その後、徴兵検査を受け、航空第二大隊に陸軍工兵として配属されました。
そして、22歳の時に父が死に、その遺産を相続します。大正11年で約10万円あったそうですから、現在の価値でおよそ5億円(この本では1.2~3億円と書いてありますが、換算の基準で変わります)の遺産を相続したことになります。そして、笹川氏はその金を元にして大阪堂島の米相場の先物取引で儲け、さらに株取引にも手を広げ、最終的にその儲けは100万円に達したそうです。
そして、そのお金を使って国粋大衆党という愛国運動に心血を注ぐことになります。
笹川氏が他の右翼活動家と違うのがこの点で、軍や財閥などから資金援助を受けることなく自分で多額の資金を稼いでいました。

そして、私には意外でしたが、笹川氏は海軍の山本五十六と懇意だったそうです。当時では珍しく、民間人でありながら飛行機を所有していた笹川氏と海軍一の航空屋といわれた山本五十六はすぐに意気投合したとのことです。昭和14年に笹川氏は羽田飛行場からイタリアに自ら飛行機を操縦して飛び、首相であるムッソリーニと会見し、さらにドイツに入ってドイツの空軍力を偵察して来ますが、これも当時海軍次官であった山本五十六の後押しがあったからだそうです。 (これも後に、「笹川はファシストだ」と言われる原因となります)

笹川氏に対する児玉誉士夫の「児玉機関」を通して莫大な資金を手に入れた、軍部と結託して金儲けをしたという説に関して、本書では否定しています。海軍の山本五十六とのつながりで、昭和15年に笹川氏に軍需物資調達の依頼がきましたが、笹川氏は自分ではなくて児玉に話を振りました。
政府や軍に取り入って甘い汁を吸うような仕事に笹川は一切手を出そうとしない。出す必要もなかったし、そういうことが好きでもなかった。 資金力は自前で十分に足りていたし、不足すれば得意の先物取引などで儲ければいい。特務機関に自らが参加するのは「どうも気に入らない」といったような勘ばたらきがあったのではないか。

大東亜戦争後、GHQによってA級戦犯に指定された笹川氏は結局、釈放されますが、B級、C級戦犯に指定された戦犯の人たちはまだ2,500人ほど残されていたそうです。笹川氏はその戦犯容疑者たちに対する支援を行いました。
巣鴨への支援物資、慰安演芸会用の衣装や化粧、小道具類の差し入れに始まり、留守家族の経済的支援、相談ごと、政治家への働きかけなど多種多様である。
もちろん、国内にとどまらず、マニラ郊外のモンテンルパ収容所などへも手を差し延べている。 その具体的な活動は、書簡などから明らかになる。だが、生前の笹川はこうした救済活動の仔細について自ら語ることは決してなかった。

笹川氏のすごい所は、自分で稼いだお金を自分のものとせずに、福祉事業につぎ込み自分の家庭に残さなかったことです。それが他の資産家たちと大きく異なるところでしょう。
株や砂糖、小豆などの相場に加え、土地を扱う商才に長けていた笹川が戦後早くから蓄財を重ね、それを原資として福祉事業を支えてきたのだ。いずれも笹川一人でできる話だ。
競艇事業での儲けは船舶振興会を通して透明性を確保した上で、各種の海事事業などへ交付する。(中略) 税申告した残りを福祉のために使う、というこの方程式が完成したのだ。

笹川氏にとって、お金は右翼活動のための資金や戦犯の家族の経済支援を行ったり、福祉事業につぎ込むためのツールであり、蓄財が目的の人とはその点が異なっています。しかし、私から見るともう少し妻や子供たちにお金を回してあげても良かったのではないか、と感じます。
笹川氏は、戦前から「ぜいたくは敵だ」という信念を持っており、「おかずはめざしが2匹あれば十分」であり、「お風呂の水は半分以上入れるな」、「便所のちり紙は半分で使え」など自分はもとより、家族にも徹底していたそうです。
後年になっても、笹川氏の食生活は変わらなかったようで、お客さんが来た時は奮発して「チャーハン」をご馳走していたそうです。(^^) 各界の社長さんが来てもチャーハン、サントリーの佐治敬三氏が来てもチャーハン、歴代の運輸大臣に対してもチャーハンだったそうです。
笹川は常々子供たち三人に対して、「俺はお前たちには一切財産は残さん。なまじ残すとろくなことにならない。財産を残さないという教育が俺の財産だ、よく覚えておけ」といってはばからなかった。
陽平が苦笑いしながらこうも言う。「そういったって死ねばまあ多少はこっちにもくるだろう、と思っていたらとんでもなかった。そのころ親父は数百億は自分の金を持っていましたからね。死んだら、なんと本当に残っていなかった」

そして、腹心と言われていた児玉誉士夫ですが、笹川氏は児玉を擁護していましたが、何度も裏切られたそうです。
児玉君が鷹揚すぎたとも思うのは、外為法の知識がまるきりなかったことだ。税金を払っていなければ脱税になる。私は児玉君に容疑がかかり始めたとき、本人に電話をして、今なら間に合うから、修正申告を出しておけといったのだが、税理士まかせでよく分からないという。

笹川氏の福祉事業への貢献に関して、筆者は以下のように述べています。
笹川良一は晩年に、福祉事業におおきな貢献をした。図らずもモンゴルの奥地で私はその事実を目の当りにもした。彼の尽力によって学校が建てられたと現地の人が教えてくれたのだ。(中略)やがて笹川は私財を投じて世界中の貧しい子供や病人の救済活動をしていたと知った。

人間は自分の尺度でしか人を見られないものです。笹川氏を「バクチの胴元」といった口調で批判していた人たちで、笹川氏のように自分はメザシを食べて、私財を投じて福祉事業に貢献した人がいたのでしょうか?(もしいたら教えて下さい)

最後に、政治評論家の藤原弘達との対談を紹介します。
いまは天然痘のあとというんで、ライだってなおらんわけはない。この間も4億円出したよ。ワシのほうから。ライの撲滅には、1兆円と20年かかるとみているんだ。その次が風土病だ。それを撲滅するのに2兆円で20年はかかるやろね。それからねえ、平和教育。ワシは核兵器の制限なんて枝葉末節のことはキライや。戦争というやつの根っこを、バッサリと切ってしまわなければならん。平和教育が終わるまで、やっぱり2兆円と20年ぐらいかかるね。

自分の私財を投じて世界各国の福祉事業に貢献する。さんざん悪口を言われても”有名税”と笑って済ませる。部下たちの裏切りにも知らぬ顔でやり過ごす。笹川氏は私には理解できないほど大きな器の人間だと思いました。

この本は、これまで左翼系マスコミを通じて長年刷り込まれていたダークな一面しか知らなかった私には衝撃的な本です。
みなさんにもぜひ読んで欲しい一冊です。

笹川氏に関しては、これも読んで下さい。
・笹川良一氏と大山館長の生き方について 悪名の棺 笹川良一伝 工藤美代子著

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このブログの目次です。
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もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら (幽ブックス)快楽(けらく)―更年期からの性を生きる (中公文庫)関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実山本五十六の生涯 (幻冬舎文庫)赫奕たる反骨 吉田茂




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コメント 10

こっちゃん

笹川良一氏ですか。
イメージ的には競艇の親分。日本船舶振興会の親分て感じでしたね。悪いイメージが強かったですね。

また、市町村とかの箱モノの建設補助とかちょっとはいいことしてるなって感じでしたが。

またイメージが変わりました。

by こっちゃん (2012-06-24 14:05) 

Simple

こっちゃん さん

Nice! &コメントありがとうございます。
この本を読むと笹川氏に関しては、マスコミが執拗にネガティブに書いていたことが分かります。競艇や株や先物取引で稼いだお金が「汚い金」なのであれば、競馬や競輪、証券会社などのお金も「汚いお金」ということになりますが、そんなことは誰も言いませんよね。
by Simple (2012-06-24 21:53) 

Simple

TBM さん

Nice! ありがとうございます。
ヒョードル引退ですか...。
引退試合を見てみたいですね。
by Simple (2012-06-24 21:57) 

Simple

(。・_・。)2k さん

Nice! ありがとうございます。
熱々のベーグル、食べたいですね。
by Simple (2012-06-24 22:00) 

Simple

tsworking さん

Nice! ありがとうございます。
熱中症防止には、「ややきつい運動」を行う必要があるんですね。
勉強になりました。
by Simple (2012-06-24 22:07) 

mo_co

笹川良一氏が運営していたスポーツクラブ主催の大会の開会式で、笹川良一氏と握手したことがあります。
ず〜っとず〜っと昔(笑)、中学生の頃でした。
B&Gというスポーツクラブ、中学生でもボート&ギャンブルと読んでいました。洗脳ですね。

by mo_co (2012-06-27 20:24) 

Simple

mo_co さん

Nice! & コメントありがとうございます。
笹川氏と握手したことがあるなんてすごい!
笹川氏はスポーツクラブも運営していたんですね。
by Simple (2012-06-27 21:19) 

Simple

mino さん

Nice! ありがとうございます。
般若心経の本、面白そうですね。
by Simple (2012-07-01 19:35) 

NO NAME

この本の信憑性は?
確かに、一方的な中傷を信じ、悪人だと思うのは間違っているが、
同様に、一冊の本だけで善人だとするのも間違いだと思う。
もう少し慎重に、自分自身で調べて評価すべきではないか。
無思考的に流れに追随していたのでは、知らぬ間に竹槍を
持たされてたり、かたや、教科書に墨を塗らされてたりする事に
なりかねない。振り回されすぎ。

by NO NAME (2015-12-11 22:10) 

Simple

名無しさん、コメントありがとうございます。

他の人を悪人、善人などと判断することはできないと思います。誰でも良いこともするし、悪いこともします。
私はそれほど若くないので、この本だけで笹川氏を判断している訳ではありません。御心配ありがとうございます。
名無しさんは、笹川良一 ⇒ 右翼 ⇒ 軍国主義 ⇒ 戦争 とステレオタイプに考えているようですが、そういう考えの方の方が危ないと思います。
最近、昭和史を調べていますが、いかに朝日新聞を含めたメディアが戦争を煽り、国民もそれに乗せられていたかが分かります。
今もマスコミはフランスは悪くない、シリアが一方的に悪いと報道していますがこれも危ない徴候だと考えています。
by Simple (2015-12-12 00:05) 

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