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菅首相は実は名相だったのか? 原発危機 官邸からの証言 福山哲郎著 を読む [震災・原発]


原発危機 官邸からの証言 (ちくま新書)この本は、3.11の東日本大震災との時の官房副長官であった、福山哲郎氏から(官邸から)見た原発事故に関して書かれた本です。

著者の福山氏は、1962年生まれ、同志社大学法学部卒業、京都大学大学院法学研究修士課程修了。京都造形芸術大学客員教授。参議院議員(当選3回)で鳩山内閣で外務副大臣、菅内閣で官房副長官を歴任しています。TVの討論番組によく出ていますので、顔をご存じの方は多いと思います。

この本は、震災当時、官房副長官として、菅首相とともに官邸の中でどのような情報を元に、どのような判断を行ったかを書いたものです。この本を読むと、首相官邸には、正確で多くの情報があったわけではないことが分かります。そして、官邸と福島第一原発の現場との間には、原子力保安院、原子力安全委員、東電本店など多くの人が介在して、現場の生の情報はまったく入ってこない状況でした。
この本を読むと、菅総理を始めとした政府の担当者たちは、限られた情報の中で最善の努力を行っていたのだということが分かります。この状況であれば、仮に民主党をさんざん批判していた自民党政権の首相だったとしても、それ以上に素晴らしい行動ができていたかどうか疑問に思いました。
そのときあった情報をもとに私たちは意思決定した。意思決定にはすべて理由がある。別の情報があれば別の決定があり得たかもしれない。では、その情報が届かなかった理由は何だったのか。その決定に至るまでに他にできることがなかったのか。なされた決定のプロせスは適切だったのか。本書でそれを検証したいと思う

東日本大震災の時の津波で、福島第一原発の1~3号機の冷却用の電源を喪失します。その場合、緊急用のディーゼル発電機が動くはずだったのですが、それは地下に設置していため、津波の影響で動かなくなっており、緊急用に電池で冷却することになります。この冷却ができなければ、核燃料はメルトダウンからメルトスルーしてしまうという緊迫した状況です。そのため、官邸は、電源車60台を現地に送るような手配を行いました。
日が変わって明け方のことだ。電源車がようやく現場に到着したとの報告を受けた。「やっと着いたか」と思ったのも束の間だった。東電からは「接続プラグのスペックが合わず、電源がつながらない」という報告が上がってきた。
その後、次々に到着する電源車は「電源盤が使用できない」「ケーブルの長さが足りない」と、すべて用をなさないことが明らかになった。私は怒りと悔しさと脱力感がないまぜとなった思いに駆られた。 東電は電気屋さんではないのか。その東電が「電源がほしい」と言うから自衛隊を動員してまで、やっとのことで送り込んだ。ところが、接続プラグのスペックが合わない、ケーブルの長さが足りない、などと言うのだ。電気屋で電気をつなげないのなら、いったいこの国では誰が電気をつなげるのか。何のために走り回って、これだけの電源車を送ったのか---

この核燃料の冷却ができないため、水素爆発の懸念がでてきたため、東電はベント(格納容器内の水素を外に出す=放射性物質を空気中に放出する)をするように判断します。しかし、水素爆発に備えて住民の避難の検討を行う段階で、現地の状況がつかめない状態が続きます。
原子力保安院や原子力安全委員会の斑目委員長から「ベントしないと水素爆発する」という説明があったため、官邸はベントするように判断をしますが、判断をした後4時間経っても東電はベントしていません。
原子力安全委員会の斑目委員長に「もうベントしないと、爆発する危険性があるのではないですか?」と何度も確認をした。「(可能性は)ゼロではない」といったあいまいな答えが返ってくるばかりだった。
「それなら、これまでの半径3キロ圏の住民避難で足りるんですか?もっと広く避難をさせなければいけないじゃないですか」
まぁそのようなことは必要かもしれない
私たちの不安と焦りは募っていった。

そして、いろいろと批判のあった周辺住民の避難に関しての記載です。最初にベントによる放射性物質の漏えいに対する避難指示です。
菅総理と枝野官房長官と私で確認し合ったことがあった。それは、「避難の指示は1分でも1秒でも早く、遅かったと言われることのないように。絶対に躊躇しない。避難は少しでも広い範囲で。後になって避難が広過ぎた、避難させ過ぎたと批判されるほうが、避難が小さ過ぎて被曝するよりまし」だった。
11日午後9時23分、福島第一原発半径3キロ圏内の避難と、3~10キロ圏内の屋内退避の指示を出した。 これ以上、避難範囲を広げる必要があるかどうかも当然、検討した。だが、まず3キロに設定し、原発近くの住民を優先して避難させようと判断した。(中略)一度に3キロ以上に範囲を広げると、原発から比較的遠い住民が同時に動き出し、大渋滞が起こって、結果的に原発近くの住民が逃げ遅れてしまう危険性がある。
そして、ベントが出来ない状況で、水素爆発のリスクが高まり、避難区域を10キロ圏内に広げました。
問題は10キロ圏内の住民に、どのような手段で避難を伝えるかということだった。停電で、かつ通信も途絶えていたことは、いやというほど分かっていた。(中略) 爆発した場合、半径10キロ圏内で十分なのか、20キロ、30キロ必要ではないかと斑目委員長に確認すると、「そんなに大きく広がらないだろう」という見通しを示した。

このような状況の中で、東電の対応には福山氏もあきれています。東電は、14日(月)から計画停電をしたいと言い出しました。
私は提案した「しかし、地震が起きた2日前の3月11日から電力需給は落ち込んでいるはずだ。大口の顧客に協力してもらって、電力使用を節減するよう説得してもらえないか」
それに対する彼らの答えに私たちは驚きあきれた。
大口の顧客はお客さまですから、電力使用量を減らしてくれなどとは、我々からは言えません
彼らにとって、大口需要者はお客さまで、一般世帯の小口需要者はお客さまではないと言わんばかりだった。平然と答えたその言葉に、枝野官房長官がついにキレた。
「もしこれで本当に人が亡くなったら、東電は殺人罪だ。ひとりでも亡くなったら、私が見必の故意で告発するぞ!」

そして、14日の夕方になって東電の清水社長から「現場から撤退したい」という主旨の電話が枝野官房長官や海江田大臣にかかってきました。ここは非常に重要な決断があった場面だと思います。もし、この時に東電が福島第一から撤退していたら、原発の冷却ができずに最悪は4号機の使用済み燃料の爆発まで進み、福島に限らず関東地方は人が住めない状況になっていた可能性があります。
そんな中で「撤退もやむを得ないかもしれない」という雰囲気があったのは事実だ。自信を持って「撤退はあり得ない」と主張する人間はいなかったと思う。しかし、現場を放棄してメルトダウンや爆発が起こったら、その原発周辺にとどまらず、被害の及ぶ地域は福島県全域、あるいはそれ以上に一挙に拡大することも分かっていた。(中略)
「これは重要な問題ですから、やはり総理の判断を仰いだほうがいいのではないでしょうか」
総理は一瞬考えたのち、「撤退なんてあり得ないだろう」と意を決したように言った。「撤退なんかしたらどうするんだ。1号機、2号機、3号機が全部やられるぞ。燃料プールまであるぞ。あれを放っておいたらどうなる。そんなことをしたら福島、東北だけじゃない。東日本全体がおかしくなるぞ。厳しいが、やってもらわざるを得ない」
みんな我に返ったように総理の判断にうなずいた。

この後、菅総理は東電本店に乗り込んで行くのですが、ちまたで言われているように「出しゃばって」行ったわけではないようです。保安院、安全委員会も当てにならない、東電は撤退すると言いだす中で、首相自らリードする必要があったようです。
菅首相が東電に話をした内容です。
これは2号機だけの話ではない。2号機を放棄すれば、1号機、3号機、4号機から6号機、さらには福島第二のサイト、これらはどうなってしまうのか。これらを放棄した場合、何カ月後かにはすべての原発、核廃棄物が崩壊して放射線を発することになるチェルノブイリの2~3倍のものが10基、20基と合わさる。日本の国が成立しなくなる。何としても、命がけで、この状況を抑え込まない限りは、撤退して黙って見過ごすことはできない。そんなことをすれば外国が「自分たちがやる」と言いだしかねない。 みなさんは当事者です。命を賭けてください。逃げても逃げ切れない。情報伝達が遅いし、不正確だ。しかも間違っている。(中略) 金がいくらかかっても構わない。東電がやるしかない。日本がつぶれるかもしれないときに、撤退はあり得ない。会長、社長も覚悟を決めてくれ。60歳以上が現地に行けばいい。自分はその覚悟でやる。撤退はあり得ない。撤退したら、東電は必ずつぶれる

私は菅首相はどうしようもない首相だと思っていましたが、この本を読んで、この東電の撤退を止めさせたことだけでも称賛に値すると思いました。もし、あの時に東電が撤退していたら、私たちは関東地方には住めなかった可能性が高いと思います。

今、原発を再稼働しようという動きが活発ですが、電力会社の人たちは原発事故が起こった場合に、比喩でなく本当に「命をかけて日本を守る」覚悟はできているのでしょうか?

これは、みなさんにぜひとも読んで欲しい一冊です。
ただ、ずっと気になっている『汚染水放出は「米の要請」?』問題に関しては記載がないのが気になります。

現場から見た福島原発事故に関してもぜひ読んでください。
”フクシマ”の現場で何が起きていたのか? 死の淵を見た男 門田隆将著を読む
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2013-01-13

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http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1
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