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「と学会」の本としてどうなの? トンデモ ニセ天皇の世界 と学会 原田実著 [歴史の真実・陰謀論]


トンデモニセ天皇の世界



久しぶりの「と学会」の本です。(^^)
内容は、古代から現代までの天皇に関する事件や伝説を取り上げて、「と学会」的に解釈するという内容で、非常に読みやすく、「へ~ぇ!」と思う内容が満載です。

ところが、第二章がいけません。第二章の最初に落合先生の書かれた本についての記載があります。

伝説
孝明天皇は暗殺されず、明治天皇と協力して公武合体・大政奉還を根回しした?
真相
根拠となる吉薗周造の手記の実在が疑わしいので、落合氏の説はホラ話の域を出ない?

南北朝こそ日本の機密 現皇室は南朝の末裔だ (落合秘史)明治維新の極秘計画 「堀川政略」と「ウラ天皇」 (落合秘史)いろいろなジャンルの事柄に関して、緻密でこれでもか、というほど瑣末な事柄に鋭い突っ込みを入れてくる「と学会」の本として、重要人物である吉薗周蔵を吉薗「周造」と間違えている時点で「こりゃダメだ!」と判断せざるを得ません。何度でも書きますが、これは「と学会」の本としては致命的なミスです。私はこの章を何度も読み直しましたが、この「周造」が出てくる度に反論する気力も萎えてきます。(笑)
「吉薗コレクション」所蔵者は中島氏を名誉棄損で東京地裁に告訴したが、その法廷で明らかになったのは、「吉薗コレクション」の顔料が他の佐伯作品と明瞭に異なること、佐伯の時代には流通していなかったはずの顔料が使われていることなど贋作説を裏付ける事実ばかりだった。結局、2002年7月30日、東京地裁では提出された「吉薗コレクション」の作品を贋作と認め、名誉棄損の訴えを退けた。
普通の人は、裁判で出された判断は正しいと思っている人が多いと思います。恥かしながら、以前は私もそう思っていました。しかし、仕事で裁判にかかわるようになってからは、その考えが180度変わりました。裁判に関しては、このブログでも何回か書きましたのでそちらをご覧ください。(http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/archive/c2300717393-1
と学会なんですから裁判に関しても一般人と同じ目線ではなく、もう一歩踏み込んで欲しいものです。

まず、そもそも論として、裁判で美術品の真贋が分かるのでしょうか? もし本当に真贋が分かるのであれば、真贋論争はすべて裁判で判断すべきだと思いますが、誰もそんなこと考えないと思います。なぜなら裁判官は法律に即して判断することしかできないからです。

今回の「吉薗コレクション」の裁判において、佐伯作品であるか否かの判断をするのに、真作派、贋作派の両巨頭である落合先生と朝日晃氏がそれぞれ証人に出て、議論を戦わせたのであればまだしも、利害関係のあるものは証人から外されたとのことで、実際に美術界から出された証人は、青木某という佐伯祐三関係では聞いたこともない人物でした。少なくとも、美術品の判断をする人物は、その人が「真作です」、「贋作です」と判断した時に業界でその判断が通る人でなければならないはずです。今回証人として出された青木某の鑑定書で、何億円という佐伯絵画の売買が成り立つのでしょうか?

また、贋作の証拠として出されている顔料に関しても、贋作側からの資料が出されただけで、その結果だけが一人歩きしていますが、内容は公開されていません。顔料の分析は、最新鋭の機器を使って分析すれば、「科学分析」と言えるわけではありません。そのデータが公開されて追実験で客観的に確認されることが必要だと思います。ですので、今回のデータに関して、私個人としては、大いに疑問を持っています。(悪意は無くともミスが生じる可能性は常にあります)
このような核心の内容には突っ込まず、「裁判で贋作と判断されて敗訴した」という結果だけしか見ていない記述には、疑問を感じます。

また、この項の後ろに参考文献が掲載されているのですが、それを見ただけで頭の中に「?」が浮かんできます。佐伯祐三に関する本で朝日晃氏の本が出てこないのはビックリですが、匠秀夫編・著 『未完 佐伯祐三の「巴里日記」 吉薗周蔵宛書簡』が無いのは致命的ですね。
匠氏の本には、佐伯祐三に関する朝日晃氏のパッションによって描かれている佐伯像に関する疑問点が書かれています。
「佐伯はブラマンクの「このアカデミック!」という怒りが理解できたのか?」
「佐伯は資金援助が不要だったのか?」
周造の手記なるものによると、周造は大陸での工作のために麻薬売買に関わり、巨額の資金を得ていた。そしてその資金の一部で佐伯のパリでの生活を支えていたというのである(実際には佐伯の実家は裕福で、その実家には佐伯から生活費を送るように頼まれた書簡が残っており、吉薗なる人物に資金援助を求める理由はなかった)
この「佐伯の実家は裕福で」とさらりと書いている点も「と学会」的にどうなのよ? と感じます。佐伯と同時期にパリで放蕩を尽くした薩摩次郎八も大富豪として有名でしたが、結局、日本に帰って来た時は、資金が尽きていました。いくら裕福な実家であったとしても、裕福な家庭は金銭の出入りが激しいと言われています。その点を何も突っ込まずに、通説をそのまま受け入れる姿勢には疑問を持ちます。

たとえば、第二次渡仏の時は、佐伯は自分の絵を売って当時の金で6,000円調達したことになっていますが、はたしてこれで足りたのでしょうか?
「当時の官費留学生の支給額は一カ月三百八十円、一般的には三百円あれば生活できるといわれた時代である。」(佐伯祐三のパリ 朝日晃)
ただし、これはあくまでも一人でつつましく暮らした場合であり、佐伯のように妻、子の三人家族での渡仏は倍以上の出費があったと思われますし、評伝によると毎日のように金のない留学生達が米子の日本食を目当てに食事に来ていたそうですから、さらに出費が重なったことは想像できます。少なめに見積もっても妻と子の分を入れて(300円×2.5人=750円/月)はかかることになります。これでは、渡航費を入れなくても、8カ月分しかもたない計算になります。

しかも、佐伯にはとんでもない浪費癖があります。
① 実家からの仕送りが120円の美校時代、三越で開かれていた物産展で130円の花瓶を衝動買いする。(山田新一著 「素顔の佐伯祐三」)
② 第二次渡仏時、実家から送金された250円全額で皮の手作りの人形を買う。(佐伯千代子 アサヒグラフ別冊)
これを読むと、佐伯は欲しいものがあると手元にある金を全部使ってでも買ってしまう性癖があったようです。このように計画性がなく浪費家であれば、いくらお金を送っても足りなかったであろうことは容易に想像できます。
また、上記、②から佐伯の実家から送金があったことは分かりますが、特に急な督促のような書き方ではないので、250円/月の送金であったと思われます。当然、この額では一人分にも足りません。
佐伯は第二次渡仏の時に1年で客死しますが、この250円/月の送金1年分(3,000円)と調達した6,000円を足すと、奇しくも生活費分の9,000円となります。(750円/月×12カ月)
そして、これはあくまでも渡航費や佐伯の衝動的な浪費分(これが大きい)、晩年の治療費や入院費(保険がないので、これも高そう)などは含まれていません。
このことだけでも、「実家からの仕送りで資金は足りていた」と言う通説には、大いに疑問を感じます。パリで絵を売っていたのでは? との意見もあるでしょうが、当時のパリには、日本人を含めて世界各国から、たくさんの芸術家が住んでいました。その中で、日本から来た無名の画家の絵が、定期的に売れたでしょうか? 可能性はかなり低いと思います。 (何点か売れたかも知れないことは否定しませんが、生活の糧にするにはあまりにも不安定です)

まあ、いろいろと試算してみましたが、そもそも佐伯の家が裕福であったのであれば何故、二回目の渡仏前に自分の絵を売って渡航資金を稼ぐ必要があったのでしょうか? また何故、船ではなく安いシベリア鉄道を使ったのでしょうか?
普通に考えれば、家のお金が足りなかったので仕方なくというのが理由だとしか思えません。この辺りの突っ込みが無いのも気になりますね。

「と学会」の本であれば、通説からさらに一歩踏み込んだ鋭い突っ込みが欲しい所です。
2章の記載を見ると、他の部分に関してもどこまで信用してよいのか疑問が持たざるを得ないのが残念です。

【落合先生の本に関してはこちらもどうぞ】
・「欧州王家となった南朝皇統」 落合莞爾著 を読む
・「明治天皇“すり替え”説の真相: 近代史最大の謎にして、最大の禁忌」 落合莞爾、斎藤充功著を読む
・孝明天皇、大室天皇の真実! 明治維新の極秘計画 ――落合秘史Ⅰ 落合莞爾著 を読む
・ユダヤとは何か? 落合先生の最新刊、 金融ワンワールド 落合莞爾著を読む
・甘粕正彦もユダヤ? 上原勇作の特務、吉薗周蔵の手記にみるユダヤ 落合莞爾著
・乾隆帝の秘宝と『奉天古陶磁図経』の研究 落合莞爾著 を読む
・マスコミの報道は疑ってかかれ! 「ドキュメント真贋」 落合莞爾著 を読む

未完 佐伯祐三の「巴里日記」 吉薗周蔵宛書簡 匠秀夫編・著 はこちら。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2011-10-09-1

このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1
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