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梶原一騎先生の遺作 「男の星座」 梶原一騎原作 を読む [格闘技]

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昭和のマンガ界のドンであった梶原一騎先生の遺作となった本です。
このマンガは連載当初、「空手バカ一代」などのマンガでは書けなかった事実を描くとか、これまでの女性関係を明らかにする、などのアオリ文句が書かれていました。当時、梶原先生と噂のあった女性達は、内心ビクビクしていたそうです。(^^)

梶原先生は、「巨人の星」や「明日のジョー」、「愛と誠」などで、私たち昭和世代のものたちを夢中にさせてくれました。その後、「空手バカ一代」で、当時ほとんど無名だった大山倍達館長を主人公とした一代記を世に問います。同時期に、ブルース・リーの「燃えよドラゴン」が大ヒットし、この当時、学校で空手やカンフーのマネをして遊ばなかった中学生、高校生はいなかったのではないか、というほどのブームとなりました。この「空手バカ一代」のブームで、当時は異端視されていた極真空手=フルコンタクト空手(実際に突きや蹴りを相手に当てる)が人気となり、今では空手界の主流となりつつあります。

その後、梶原先生は、少年マガジンに連載した「四角いジャングル」でマーシャルアーツのべニー・ユキーデやアントニオ猪木などを登場させ、マンガで実際の格闘技の宣伝や解説をするという、これまで無かった「メディアミックス」を実現させました。これは、例えば「四角いジャングル」でアントニオ猪木が闘う試合に関して、対戦相手の紹介や裏話を解説して盛り上げるというもので、極真会館の真樹日佐夫先生や故芦原英幸氏を登場させて、二人の会話で読者に説明をするという、今考えるとトンデモナイものです。(^^)
当時は真剣になって読んでいましたが、振り返って見ると、いかにもイカガワシイ話であふれていました。梶原先生の作品は、いくつかの実際にあった話にフィクションで大盛りして膨らませるという手法を取っています。そして、その決め文句が、「もしこの話を疑うのであれば、●●を確認してみればよい」と断言します。この●●は本当にあった話ですので、ナルホドといって騙されてしまうのでした。(笑)

さて、本題の遺作である「男の星座」ですが、これまでに書けなかった事実を書くと言いつつ、実際にはこれまでの梶原先生の作品と同様にかなりのフィクションが含まれているように思えます。しかし、私はそれを否定しているわけではありません。事実を淡々と書いただけでは、盛り上がりのない読んでいて面白くない作品にしかならないと思います。そんな昭和の純文学のような作品を梶原先生の読者も望んではいなかったと思います。(少なくとも私は...)
思えば4分の1世紀 ― 25年の余にわたり梶原一騎は劇画の原作を書いてきた。
そして、このたび「引退」を決意した。理由は今更クドクド言わぬ。思うところあって、と日本語には奥行き深い表現があるではないか。あえて一言だけ残すなら、あの百恵チャンや都はるみだって退き際を知っていた、いわんや男一匹・・・。
とにかく、これが劇画原作者・梶原一騎として最後の作品になる。題して ― 一騎人生劇場・男の星座。さよう、完全なる自伝である。(中略)
従って力道山が出てくる、大山倍達が登場する、A・猪木もG・馬場も2人のタイガーマスクに至るまで。(中略)
いろいろ世間で噂してくれた女優タレント達のことだって赤裸々に描くつもりだ。友よ、愛する読者諸兄よ、梶原一騎とのゴージャスなる「最後の晩餐」に堪能せよ!

このような、梶原先生の言葉で始まる本作ですが、まず主人公が「梶一太」である、という時点で、これはフィクションだと思わざるをえません。本当にノンフィクションを書くのであれば、本名である「高森朝樹」を使うはずですが...、それとも昭和の私小説のスタイルをまねたものなのでしょうか ・・・。

本篇は、昭和29年12月22日の東京蔵前国技館の力道山VS木村政彦の”プロレス巌流島の決闘”から始まります。ご存じのように力道山の裏切りによって木村が敗北した試合の後、力道山に喧嘩を売った大山倍達が登場します。この辺はおなじみのシーンですね。前半は、この力道山と大山倍達との交流を中心に描かれています。みなさんすでにご存じのように、この二人とも朝鮮半島から渡って来たという過去を持ちます。しかし、この「男の星座」では、力道山の過去は明らかにしていますが、大山倍達の過去に関しては描かれていません。この辺りは、まだ大山氏に対する遠慮があったのかも知れませんね。

この本には、浅草の星八神カオルとの同棲やオカマのジャニーさん、そして、大山倍達の一番弟子の春山章が、そのジャニーさんが亡くなった時に遺体を抱えて「あ~ら えっさっさ !!」 と病院を踊り回る逸話が描かれています。いったいどこまでが本当なんだろう? と考えつつ読まざるを得ない作品です。この辺りが、この本を読む醍醐味かも知れません。(^^)

そして、この本の根底には、事情による高校中退という学歴や優秀な編集者であった父親高森龍夫に対する強烈なコンプレックスがあり、それをバネに力道山という「太陽」と大山倍達という「月」と関わりながら、絶対に成り上がってやるという強烈なエネルギーがみなぎっています。

この本は、梶原先生の死去により、講談社の牧野編集長が訪れて、連載を依頼するという場面で未完のまま終了となっています。つまり、有名な「巨人の星」や「あしたのジョー」などの大ヒット作品が生れる前、いわば夜明け前で終わっているのです。ファンとしては、本当に残念なことです。
お笑いの浅草キッドの水道橋博士も熱烈な梶原一騎ファンで有名で、「お笑い男の星座」という本も出していますが、私と同様に未完で終わったこの作品を非常に残念だと言っています。
梶原漫画の一群が、俺たちの情操教育に、どれほど影響をしたかは計り知れない。そして、梶原一騎の人生ほど、波乱に富み、激烈で、昭和の匂いが漂うものはない。これは誰かが語り継ぐべきものである。
そして、博士はこの未完の遺作を真樹先生に書いて欲しい、と事あるごとにお願いしてようやくOKが出たということを読みましたが、その書くべき真樹先生も逝かれてしまいました。本当に残念です。

昭和の時代を生きたおじさん達には必読の書です!

大山倍達については、以下もご覧ください。
・大山倍達の偶像崩壊! 「添野義二 極真鎮魂歌: 大山倍達外伝」 小島一志著 を読む 
・大山倍達と民族運動 「大山倍達正伝」 小島一志、塚本佳子著 を読む その1
・大山倍達と力道山の伝説 「大山倍達正伝」 小島一志、塚本佳子著 を読む その2
・ケンカ十段! 芦原英幸正伝 小島一志著 を読む その1
・極真会館はなぜ分裂したのか? 大山倍達の遺言 小島一志、塚本佳子著 を読む
・笹川良一氏と大山館長の生き方について 悪名の棺 笹川良一伝
・日本の空手界を変えた名著! 「空手バカ一代」を読みなおす 
・ケンカ道 その”究極の秘技”を探る 篠原勝之著
・空手超バカ一代  石井和義著

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