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美術品の科学鑑定って? 「X線分光分析」、「やきものの美と用―芸術と技術の狭間で」 加藤 誠軌著 を読む [尾形乾山]


X線分光分析やきものの美と用―芸術と技術の狭間で


佐野乾山事件の時の科学鑑定に関することを書いた本です。
両書とも佐野乾山事件についての記載は1,2ページしかありませんが、学術的な本に書かれたということで決定的な証拠として安易に引用している人もいるので、ここで取り上げてみます。
著者の加藤誠軌氏は、1928年生まれ、東京工業大学卒業、1958年同大学工学部助手、1967年助教授、1974年教授、1989年定年退官とのことです。佐野乾山事件の当時は東工大の助手だったようです。

それぞれの本の記載を見てみましょう。(下線は引用者が付けました)
昭和37年頃、二百余点の「佐野乾山」が新たに発見された。さらに「佐野乾山手控帳」という覚書も見つかった。その当時蒐集家のM氏の依頼で(国立博物館の専門官H氏も同席した)著者がXRF装置で分析した。当時のXRF装置は大きな物体は測定できなかった。そこで、木綿針を数本束ねて焼き物を啄木鳥のようにつついてごく少量の上絵具を採取した。傷跡は漆と顔料で補修した。昔の顔料と現代の顔料を数十種類用意して、それらを標準にして定性分析をした。
分析の結果は、佐野乾山の絵具の顔料は非常に純粋で、昔にあるはずがない顔料も検出した。分析結果はM氏に伝えたが公表はしなかった。著名人士を巻き込んで賛否両論が国会にまで持ち出された「佐野乾山」は偽物であることがこの方法で科学的に証明された。現在では「佐野乾山」の作者も判明しているという。
(「X線分光分析」より)
森川は第一級のコレクターで審美眼や古文書の読解には自信をもっていたが、その上をゆく贋作者がいたわけである。
森川は収集した佐野乾山を内密に処分したらしい。佐野乾山の偽物には巧拙数種類があって、森川コレクションの佐野乾山は本物に近くて古物商でも鑑定が難しいそうである。(中略) ということで目利きや専門家の眼力もあまり当てにできない。つまり軟陶の鑑定はプロにとっても非常に難しいのである。
(「やきものの美と用―芸術と技術の狭間で」より)

佐野乾山の焼物は、素焼きした器に白化粧を行い、絵具で絵付け、画賛・銘を書き、透明釉をかけて窯で焼く「下絵付け」という手法で焼かれています。ですので、上の引用文に「ごく少量の上絵具を採取した」と書いているのをみると、何を採取したのか疑問を持ってしまいます。もしかすると、透明釉の成分分析をしたのか? とも読める記載です。
このように疑問を持つのは、学術書の体裁をとっているにもかかわらず、両書とも解析したデータの記載がないのです。データが無いのに「佐野乾山の絵具の顔料は非常に純粋で、昔にあるはずがない顔料も検出した」と書かれてもコメントのしようがありません。
そして、たとえ用意していた顔料と成分が異なっていたとしても、「用意していた顔料とは成分が違う」としか言えないと思います。それにもかかわららず、「「佐野乾山」は偽物あることがこの方法で証明された」と断言する記載はとても科学者の書いたものとは思えません。
さらに、加藤氏のロジックは、「調査した1点の佐野乾山が偽物だったので、「佐野乾山」は偽物である」というトンデモないものです。このロジックでいけば、鳴滝乾山の贋作を1個調査して贋作だったので、「鳴滝乾山」は贋作であると主張するようなものです。正直言って、東工大の教授がこんな論理構築をするのか? と本当に疑いました。

もうすでにご高齢の方なので、あまり言いたくはありませんが、松浦潤氏のような人が「科学鑑定によって佐野乾山は贋作と証明されていた」などと強く主張しているのであえて書きました。

また、佐野乾山事件の前年に大きな問題となった「永仁の壷事件」についても書かれています。
東京国立文化財研究所の江本義理技官らは、永仁の壷を鎌倉時代から確実に伝世している古瀬戸と蛍光X線分析装置で比較測定した。その結果、釉薬に含まれるルビジウムとストロンチウムの比率がまるで違うことが指摘されて、結果は黒と判定された。
(「やきものの美と用―芸術と技術の狭間で」より)

この事例は、科学鑑定で真贋を判定した事例として書かれることが多いのですが、本当にこの調査で分かるのでしょうか?
①「確実に伝世している古瀬戸」と言われているものは本物か?(そのようなものがあるのか?)
②「確実に伝世している古瀬戸」と言われているものと釉薬の成分が違う古瀬戸は無いのか?
(今後、発掘されて見つかる可能があるのでは?)
というような疑問があります。古陶磁の世界で、科学鑑定の基準となる鎌倉時代からの「確実な来歴」を持つものはあるのでしょうか? また、①に関しては、人間が鑑定したものですから、贋作が混じっている可能性は少なからずあると思います。結局、科学鑑定と言っても、現在本物と言われているものとの比較でしか分からない訳ですから、「本物と言われているもの(基準品)と同じか否か」しか判定できないのです。
この「永仁の壷事件」にしても、唐九郎の告白が無い状態で、科学鑑定の結果だけで贋作と判断されたかどうかははなはだ疑問です。結局は唐九郎の告白の裏付けだけの位置づけだと思います。

まあ、この本はあえて読む必要はないと思います。(笑)

【佐野乾山に関しては、K's HomePageを参考にしています。(http://kaysan.net/sano/sanokenzan.htm)】

●乾山に関する記事です。
・琳派 尾形乾山の書を考える その2 乾山の字母について
・琳派 尾形乾山の書を考える その1
・陶工 尾形乾山は本当に素人か? 『「琳派」最速入門』を読む
・乾山ゆかりの地がおしゃれになっていた! (2017年)
・「乾山 見参! 着想のマエストロ」 を読む
・佐野乾山はホンモノだ! 岡本太郎の見た佐野乾山 美術手帖 1962年8月号 を読む
・「佐野乾山事件とバーナード・リーチ」 豊口真衣子著 を読む
・佐野乾山の新聞報道に関して(2015年)
・尾形乾山生誕350周年の展覧会(2013年)を振り返る
・美術品の科学鑑定って? 「X線分光分析」、「やきものの美と用―芸術と技術の狭間で」 加藤 誠軌著 を読む
・佐野乾山に関する名著 佐野乾山の見極め 渡辺達也著 を読む
・佐野乾山は美しい! 骨董のある風景 青柳瑞穂著 青柳 いずみこ 編 を読む
・乾山と言えば色絵陶器です! 「国際写真情報 」 を見る
・佐野乾山の真実! 尾形光琳二代目 乾山 細野耕三著 を読む
・藤田玲司と三田村館長が認めた「佐野乾山」、ギャラリーフェイク 006 「タブーの佐野乾山」 細野不二彦著 を読む

このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1
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