SSブログ

落合秘史はここから始まった! 『天才画家「佐伯祐三」真贋事件の真実』 落合莞爾著 を読む [落合莞爾]

天才画家「佐伯祐三」真贋事件の真実
落合先生の代表作の紹介です。
本来であれば落合先生の本としてまっ先に紹介すべき本でしたが、諸般の事情で遅れてしまいました。

この本は、1997年に発刊ですので、もう20年前になります。落合先生が、佐伯祐三のパトロンであった吉薗周蔵氏の遺児である明子氏の代理人となったことで、佐伯祐三の真贋事件に関わることになる経緯と顛末を書いたものです。

佐伯祐三真贋事件とは、吉薗周蔵氏が残した佐伯祐三の未公開作品を周蔵氏の遺児である明子氏が、1994年に福井県の武生市(現在の越前市)に寄贈することになった事から話が始まります。この佐伯作品は、当時美術界のドンと言われていた河北倫明氏が座長となって選定委員会を設置して調査した結果、佐伯祐三の真作であるとのお墨付きを与えました。この時の委員のメンバーが凄いです。
座長:河北倫明(美術館連絡協議会理事長)
富山秀男(京都国立近代美術館館長)
陰里鉄郎(横浜市立美術館長)
西川新次(慶応大学名誉教授)
三輪英夫(東京国立文化財研究所美術部第二研究所長)
という、美術館の館長クラスのメンバーが揃っていました。
これに対して佐伯絵画の鑑定を行っている東京美術倶楽部という業者の団体が猛烈な反論を行ったことで真贋事件に発展し、結局武生市への寄贈話が頓挫することになります。ちなみに、東京美術倶楽部には鑑定師の中島誠之助氏も加盟していたそうです。古美術商の中では東京美術倶楽部に入る事がステータスになっているそうです。

この真贋事件は、真作派の「専門家」と贋作派の「業者」との対立という構図です。
このブログで何度も紹介している「佐野乾山事件」も同様に「専門家」VS「業者」という構図でした。私は、佐野乾山事件を調べていて、東京国立博物館や京都国立博物館の技官や東大の教授など美術界の中心にいる人たちが真作派だったのに、なぜ黒(グレー)にさせられてしまったのか不思議に思っていましたが、佐伯祐三の真贋事件はさらにスケールがワンランク上です。

何せ、真作派はすべて美術館の館長クラスの権威ある人たちであり、それを取りまとめていたのが河北倫明という美術行政のトップであり、美術界のドンだった人です。しかも、河北氏は対立する東京美術倶楽部の顧問でもあるという捻じれ構造も内在していました。これだけ凄い役者がそろっていても真作派が負けて贋作にされてしまうのですから、金銭が絡んだ時の業界勢力の力というのは恐ろしいものだと思います。

例えば、佐野乾山事件の時には乾山の真作が300点くらいと言われていた時に、一度に200点以上の佐野乾山が発見されました。もしこれらの作品が真作と認められた場合、これまで希少性も含めて形成されていた乾山作品の市場価格(価値)が暴落するのは自明の事です。
同様な事情が佐伯祐三作品にもありました。佐伯作品は日本人の洋画としては非常に高価で、1点でも数千万円から億の価格が付くものもありますが、この時発見された大量の吉薗佐伯が真作と認められた場合、これまで美術館や個人に売却されていた作品の価格が暴落することになります。

さらに佐伯作品の場合、妻である米子の加筆疑惑があったためさらに事情が複雑です。佐伯祐三の妻である米子も画家でした。第二次渡仏の時に佐伯祐三が客死した後、日本に帰国した米子は佐伯の遺作や佐伯の友人の絵に自ら加筆して「佐伯作品」として売って生活費を稼いでいたと言われています。この米子加筆に関しては、関係した業者の間ではかなり有名な話だと聞いています。

1991年に「パリを描いた画家たち展」という展覧会が開催されました。これは、昭和2年にパリに居た佐伯祐三を慕って横手貞美、大橋了介、荻須高徳、山口長男の4人が渡仏して佐伯と一緒に絵を描いていましたが、その時の作品を集めた展覧会です。
私はこの展覧会の図録を見て驚きました。モランの寺やパリの街角など佐伯作品の重要なモチーフに関して、その4人の後輩たちも佐伯と見紛うような絵を描いていたのです。私には、その絵のいくつかは佐伯作品だと言われても見分けがつかないように思いました...。

restaurant1.JPG吉薗周蔵氏が残した佐伯作品は、これまで知られている佐伯作品とは雰囲気が異なるものでした。この吉薗佐伯作品に対する真作派のコメントを紹介します。
河北倫明座長:一目見て佐伯祐三の本当の姿が響いてきた。美術的価値はこれまでのものと匹敵し、今までのものに見られない荒削りで習作的なおもしろさがある。デッサンや手記に関しては、走り書きもあり、バラバラにせず総合的な調査をしたい。山発コレクションと比較すると、山発はいいものを抜いていったもので、今回の作品は山発コレクションの素材が残ったものといえ、(佐伯作品の)背景や土台を見るには面白い。

富山秀男:出所からしても佐伯作品と思う。これまでの作品との関連性も強く感じる。佐伯に対する既成概念より幅が広がったと考えている。今までの作品はよそゆきで今回出てきたのはふだん着の作品。研究し直す必要がでてきた。

陰里鉄郎:これまでの佐伯像よりビビッドなものを感じる。

このビビッドな佐伯作品を所有していた人こそ、落合先生が20年以上に渡って研究してきた吉薗周蔵氏です。遺児の明子氏から調査を依頼された落合先生が、持ち前の洞察力と豊富な知識を駆使して明子氏も知らなかった周蔵氏の実像を明らかにしていく過程は、この本の白眉と言えます。

russia1.JPG落合先生の調査によって、吉薗周蔵氏は公家の名家で正三位の堤哲長の孫であることが分かりました。周蔵氏は大正元年、18歳の時に縁戚であった上原勇作陸軍中将の特務(いわゆるスパイ)となります。そして、上原の指示で軍のためにケシの栽培を行って、純粋アヘンの製造を行いました。これによって、周蔵氏はかなりの収入を得ることになります。
そして、大正6年23歳の時に上原勇作から佐伯祐三の援助を行うように依頼されます。それ以来、周蔵氏は佐伯のパトロンとなり、金銭的な援助を行いました。

しかし、上原勇作の特務という裏の仕事であったため、それを裏付ける証拠が出るはずもなく、「佐伯と周蔵氏の接点がない」、「周蔵氏に佐伯を援助できるほどの収入があったとは思えない」、「佐伯は実家が裕福だったので周蔵氏からの援助など必要なかった」などの理由で周蔵氏と佐伯祐三との関係も否定されました。
これに関しては、(「と学会」の本としてどうなの? トンデモ ニセ天皇の世界 と学会 原田実著」:http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2013-08-25)にも詳しく書いていますので、興味がある方はご覧下さい。

事件が起きた時期もよくありませんでした。小泉首相の北朝鮮訪問前ですので、北朝鮮による日本人の拉致問題は、第二党であった社会党の党首でさえ「そのような事はありえない」というようなコメントを出していた時代です。この頃は、北朝鮮の工作員などの話をすると、「映画の見すぎじゃない?」などと馬鹿にされたものです。バブル崩壊直後で日本人が平和ボケしていた時代ですから、「上原勇作の特務」と言っても誰も信じない時代でした。
ちなみに、日露戦争時にレーニンに多額の資金援助行ってロシアの後方撹乱を行った陸軍の明石元二郎も上原勇作の配下でした。その関係で、周蔵氏が任務で渡欧した時は明石の残した諜報網を利用したと言われています。

この本は、一部が佐伯祐三の真贋事件の経緯と顛末が書かれており、ニ部には吉薗周蔵に関連した薩摩治郎八や奉天古陶磁に関して書かれています。ニ部の内容も非常に貴重な情報が満載で、佐伯に興味が無い方でも楽しめると思います。

落合先生は、この真贋事件の後も吉薗周蔵氏の残した吉薗手記の調査、解析を継続して行い、現在の「落合秘史」につながっています。

ぜひみなさんに読んで欲しいと思います。
(ただし、絶版なので中古品でも5,000円以上しますが...)

【落合先生の本に関してはこちらもどうぞ】
・「吉薗周蔵手記」が暴く日本の極秘事項」 落合莞爾著 を読む
・落合秘史はここから始まった! 『天才画家「佐伯祐三」真贋事件の真実』 落合莞爾著 を読む
・「天皇とワンワールド」 京都皇統の解禁秘史 落合莞爾著 を読む
・「欧州王家となった南朝皇統」 落合莞爾著 を読む
・現皇室は南朝の末裔だ「南北朝こそ日本の機密」 落合莞爾著 を読む
・「日本教の聖者・西郷隆盛と天皇制社会主義」 - 版籍奉還から満鮮経略への道 落合莞爾著 を読む
・「明治天皇“すり替え”説の真相: 近代史最大の謎にして、最大の禁忌」 落合莞爾、斎藤充功著を読む
・孝明天皇、大室天皇の真実! 明治維新の極秘計画 ――落合秘史Ⅰ 落合莞爾著 を読む
・ユダヤとは何か? 落合先生の最新刊、 金融ワンワールド 落合莞爾著を読む
・甘粕正彦もユダヤ? 上原勇作の特務、吉薗周蔵の手記にみるユダヤ 落合莞爾著
・「と学会」の本としてどうなの? トンデモ ニセ天皇の世界 と学会 原田実著
・乾隆帝の秘宝と『奉天古陶磁図経』の研究 落合莞爾著 を読む
・マスコミの報道は疑ってかかれ! 「ドキュメント真贋」 落合莞爾著 を読む
このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1
ブログランキングに参加しています。記事が気にいったらクリックをお願いします。
人気ブログランキングへ

活字に出来ない《落合秘史3》 南朝天皇・北朝天皇の機密~明治天皇すり替えの極秘計画 <DVD> (DVD 活字に出来ない落合秘史)天皇と黄金ファンド 古代から現代に続く日本國體の根本ワンワールドと明治日本 (落合秘史)明治維新の極秘計画 「堀川政略」と「ウラ天皇」 (落合秘史)京都皇統の解禁秘史 天皇とワンワールド(国際秘密勢力)金融ワンワールド 地球経済の管理者たち南北朝こそ日本の機密 現皇室は南朝の末裔だ (落合秘史)日本教の聖者・西郷隆盛と天皇制社会主義 —版籍奉還から満鮮経略への道― (落合秘史)活字に出来ない落合秘史2 金融ワンワールド~天皇と黄金ファンドの秘密 (<DVD>)明治天皇“すり替え”説の真相: 近代史最大の謎にして、最大の禁忌欧州王家となった南朝皇統 (落合秘史)京都ウラ天皇と薩長新政府の暗闘 (落合秘史)活字に出来ない《落合秘史》 日本人が知るべき「國體」と「政体」の秘密 (<DVD>)国際ウラ天皇と数理系シャーマン 明治維新の立案実行者 (落合秘史)奇兵隊天皇と長州卒族の明治維新 (落合秘史)

nice!(5)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 2

viviane

コメント有り難う御座いました
そうだったんですね~古川橋近くに・・・
私もバブル崩壊後、日本に戻り第2の職
1年弱駒込~南麻布(仙台坂下)数年で東京生活でした
ホント、南麻布と白金は橋を渡ると全く景色が違いますね
あの頃は大江戸線等なかったので、広尾までバスか歩きで不便でしたが、良い所でした
宮城の泉と、東京、結構お互い近くで生活していたんですね^^
by viviane (2017-04-17 11:26) 

Simple

viviane さん、

Nice & コメント ありがとうございます。

vivianeさんも南麻布に通っていたのですか! 本当に偶然ですね。
そうなんですよ、あの辺は「陸の孤島」と言われていましたよね。(笑)
私は渋谷から新橋行きのバスで古川橋まで通っていました。
でも、少し奥に入るといろいろな国の大使館があったり、有栖川公園があったりして雰囲気は良かったですね。
by Simple (2017-04-17 18:41) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。