SSブログ

石原慎太郎はアシスト王だ! 三島由紀夫の日蝕 石原慎太郎著 を読む [社会]

三島由紀夫の日蝕mishimanisyoku.jpg
石原慎太郎氏が三島由紀夫について書いた本です。

最近、新党結成などでニュースによく登場する石原慎太郎氏ですが、若い人たちは4期連続して当選した東京都知事としての顔しか知らないかも知れませんね。でも石原氏は、一橋大学在学中の1956年に「太陽の季節」で文壇に衝撃的なデビューをはたし、第34回芥川賞を受賞しています。
この受賞作品は大胆な風俗描写や赤裸々な表現で、文壇だけでなく一般社会に対しても「太陽族」のような社会現象を生むようなインパクトを与えました。

一方の三島由紀夫は16歳のころから「花ざかりの森」で文壇に知られており、長らく文壇の若手の旗手として活躍していました。そして、ひ弱な肉体にコンプレックスを感じていた三島は1955年頃からボディビル、空手、剣道、居合道などに取り組むようになります。
そのような時期に文壇にすい星のごとくデビューした、サッカー、ヨット、テニスなどを趣味とする根っからのスポーツマンである石原氏に対して、三島はかなり対抗意識を燃やしていたようです。
そのような三島と石原氏との関わりの中で見たことを書いたのがこの本です。
氏との出会いから今までをふり返ってみれば、私はいつも氏のそばで氏の痛々しい分裂を目にし、その証人として立っていたような気がする。それ故にも、むしろ氏とじかに会わずにすめた方が私にとって良かったような気さえする。私に日本語で書かれた現代の文学の魅惑について教えたのは氏の作品だったし、私自身が物書きとなってから私の無意識の構造について正確に解析してくれたのも氏だった。

姥捨山をテーマにした『楢山節考』を三島に激賞されて世に出た深沢七郎氏の三島に対するコメントも興味深いですね。
三島氏が亡くなってからしばらくして、氏によって認められ世に出たともいえる深沢七郎氏と久し振りに対談したことがあるが、その時あの世俗に徹して生きたともいえる深沢氏が三島氏のことを、ほとんどにべもなく、
いくら頭が良くても、あんな無理して生きていればそりゃあ若死にしますよね
といったのが印象的だった。

三島由紀夫が若くて長身でスポーツマンである石原氏に対してかなりの対抗意識を燃やしていることがうかがえるエピソードです。
三島氏は写真一つにも何か掛け替えのないものを賭けているようなところがあった。
氏は頼みもせぬのに私に文壇における所作その他についていろいろ忠告してくれたものだが、その一つに雑誌のグラビア写真は必ず自分で選べというのがあった。(中略)
私とて決して写真を気にせぬ訳ではないし、他人が撮って選んだ写真が気にそまぬことは多々ある。ということで、以前ある出版社からの選集に、面倒なのでその前に出演した映画の宣伝用に撮ったブロマイドの中から、あまりブロマイドくさくなく写っている一枚を選んで渡したことがある。
本が出たか出ぬかの間合いで突然三島氏から電話がかかってきた
「君、今度の選集の扉の写真、あれはブロマイドだろう」
「どうして」
「どうしてって、わかりますよ。驚いたね、ひどいもんだ、ああ、君にはあきれはてた。アプレゲールというものもここまで恥知らずとはねえ」
「なぜですか」
「だって君、ブロマイドでしょ、あれは」
「だってあれしかなかったんですよ、いい写真が」
「いい写真といったって、あれは君ブロマイドだぜ」
「なんだって同じですよ」
「ああ、驚いた、まったく世も末だね」
三島氏がそんなことで驚きかつ面白がり、かつまた少し羨ましがっているのがよくわかった。

さて、いよいよサッカーの話です。石原氏は、スポーツマンとして知られていますが、サッカーはかなりのレベルで取り組んでいたようです。今では前線に顔を出して自らゴールを量産している(^^)石原氏ですが、当時はエースのアシストに徹していたようですね。
私事だが、あれは三十二、三の年の頃だった。私は当時仲間と作った湘南サーフライダースというエレキバンドみたいな名前の全くの手製のサッカーチームでボールを蹴ってい、大学を出たてで早稲田では一年の時からレギュラーだった久保田という素晴らしいセンターフォワードを得て、彼とのコンビで二年続いて、今でいうアシスト王だった。私たちのチームが所属していたのは今の関東リーグの前身のリーグで、その中には後に日本リーグに進んだ日本鋼管もいた。ある年など上の日本リーグとの入れ替え戦にまで出て日本鋼管と引き分けたこともある。(中略)
レフトウィングの私はもう昔みたいにボールを持って走り切れぬようになってはいたが、持ち前のロングキックを生かし、一人抜いた後なお走ると見せかけて中へ切れ込み、サインに合わせて走っている久保田に長いパスをオフサイドぎりぎりに送り彼がそれを決めて勝つことがよくあった。

スポーツマンであり、真剣にスポーツと対峙していた石原氏から見れば、三島氏の剣道、居合に対する取り組みがまったくの付け刃にしか見えなかったようです。
そして私はとうとうある所で三島氏の真剣を振り回しての居合に立ち合わされる羽目になる。(中略) 居合の腕はどれほどかと聞いたらすでに三段ということで、私は信じられずに、
「なら今までにずいぶんと指を切ったでしょう」
いったら氏は憤然として、 「失礼なことをいうな、どこにその跡がある」(中略)
一つ一つ何々の型と注釈をつけ、ある型では畳を強く踏みつけながら、
「これが道場の板の間だといい音がすんだがな」といった。
二度か三度刀を鞘にしまいはしたが、その動作は指を切る暇がないほど(?)スローヴィデオのようにゆっくりとしたものだった。土台、居合や踊りの名手のように腰が割れておらずへっぴり腰で、当人はいい気なものだが見ていて気の毒だった。
私が笑いをこらえて眺めている気配を察したのか、最後に突然大声で型の名を唱えると大上段に振りかざした刀を裂帛の気合で、敷居の手前に座った私の頭上に向かってふり下ろした。氏としては私の頭上寸前で止めて脅すつもりだったのだろう。しかし間尺を誤った刀は私の頭上の鴨居に音をたてて切りつけ刃が食い込んだ。
「あっ」、と小さく叫んで、真っすぐに引けばよかったが焦って捻ったために、ぱりんと音を立てて刀の刃が大きく割れてこぼれた。(中略) 「この部屋は居合には狭かったな」
私は可笑しくなって、
「それは変だな、居合というのはもともと狭い部屋でやるものでしょうが。これは本当の勝負だったら、あなたが鴨居を切っている間に僕はあなたの腹をかっ割いていましたよ」
いったら顔色が変わり、
君はまたよそへいってこのことを喋るんだろう」(中略)

三島は、1970年に自衛隊市ヶ谷駐屯地を訪れて、東部方面総監を監禁し、自衛隊員にクーデターを促し、その後割腹自殺を遂げましたが、それについても石原氏はきびしい見方をしています。
第一、三島氏が現代の武士ならば、なぜ同じ武士たちの長たる東部方面総監をその部屋でだまし捕えて縛り上げ、縄目の屈辱をあたえたりするのか。総監はあれから三年後癌をわずらって死ぬが、あの事件の屈辱を忘れずその汚名の灌ぎ方の知れぬままろくな療養もしようとせずほとんど憤死したという。そして残された武士たち、自衛隊の幹部はそれを忘れていない。ある者は、三島はむしろあの時総監を切り殺してくれたほうが良かったとさえいっていた。

三島は文壇での仲間と思っていた石原氏が政治家になってしまったことが、かなりのショックだったようです。
三島氏が私と同じ選挙に出るつもりがあったが私がその先を越した形になったのでひと頃たいそう機嫌が悪く、誰に当る訳にもいかず母親の倭文重さんに駄々をこね手こずらせたと、当の倭文重さんから打ち明けられたと聞かされた。(中略)
「ご当人は本気だったみたいですよ。でも、私がそのことを言ったら栄作は首を傾げ、それはただの思いつきだけなのじゃないかといっていたけど、一時は本気だったことは確か。とにかく亡くなる前お母さんに、つまらないつまらないこれなら死んだほうがましだってよくいっていたそうよ。どうしてそんなにつまらないのって質したら、ノーベル賞は川端さんにいちゃうし、石原は政治家になっちゃうしって子供みたいに駄々をこねていたそうですよ。あんな死に方をするなんて思わなかったから、もう少し本気で息子のいうことを聞いてやっていればよかったって、お母さんは後悔していたわ」(佐藤栄作夫人)

作家としての石原慎太郎の鋭い観察力を通して見た三島由紀夫の姿が見えてくる本です。
三島ファン、石原ファンにはお勧めの一冊です。

三島由紀夫に関しては、こちらもどうぞ。
新潮社社員にノーべル文学賞を!(^^) 真説 三島由紀夫 板坂剛著 を読む(http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2011-12-31

少し、三島氏の名誉回復を。(笑) 見事な英語です。さすがディズニーランド大好きな三島さんです。


三島氏が学生運動の全盛期に東大全共闘に一人で乗り込んだ時の映像です。私が大学時代は音声テープしかなかったのですが、映像で見られることに感激しました。
三島氏が聴衆を魅了していることが分かります。昭和の時代を感じますね。


石原都知事と猪瀬副知事ともに三島由紀夫の本を書いているのが面白いですね。
消される前に見ておきましょう。


ブログランキングに参加しています。記事が気にいったらクリックをお願いします。
人気ブログランキングへ

このブログの目次です。
http://simple-art-book.blog.so-net.ne.jp/2010-04-17-1

新・堕落論―我欲と天罰 (新潮新書)真の指導者とは (幻冬舎新書)私の好きな日本人 (幻冬舎新書ゴールド)太陽の季節 (新潮文庫)石原慎太郎はなぜパチンコ業界を嫌うのか (主婦の友新書)老いてこそ人生 (幻冬舎文庫)弟 (幻冬舎文庫)黒い都知事 石原慎太郎


nice!(7)  コメント(7)  トラックバック(0) 

nice! 7

コメント 7

Simple

TBM さん

Nice! ありがとうございます。
セレッソ、残念でしたね。
こちらは、仙台もレッズも調子がよいのでうれしいです。
by Simple (2012-04-15 22:09) 

Simple

こっちゃん さん

Nice! ありがとうございます。
村上龍氏は、昔はテニスに凝っていて、テニスの本を出したこともあります。
私もテニス青年(^^)だったので、「こんな人がテニスの本を出して良いんだ...」と思ったものです。
サッカーも同じようなものでしょうか?
by Simple (2012-04-16 22:41) 

Simple

マチャ さん

Nice! ありがとうございます。
タイタニックの沈没は4月14日だったんですね。
私は、「タイタニック 3D」を昨日見てきました。
一日違いでしたね。
by Simple (2012-04-16 22:45) 

Simple

mo_co さん

Nice! ありがとうございます。
保護者の役員って大変ですよね。
自ら名乗りでるとはスゴイです。
by Simple (2012-04-16 22:48) 

Simple

tsworking さん

Nice! ありがとうございます。
スバルユーザーは拘りがありますよね。
あの水平対向エンジンの音は独特ですからね。
by Simple (2012-04-20 23:23) 

Simple

くらいふ さん

Nice! ありがとうございます。
川津のさくらきれいです。
背景がきれいにボケていますね。
by Simple (2012-04-21 20:46) 

Simple

幸せ家族 さん

Nice! ありがとうございます。
セブン銀行も高値更新なんですね。
by Simple (2012-04-23 22:38) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。